私はこのころ、お友達からおしえてもらって、御朱印集めというステキな趣味を始めようと思ったのです。で、それならやっぱりなじみのあるところからだ、ってんで、初詣のついでに、まずはご近所の赤城さんで御朱印帳を買うことにしました。神楽坂通りの少し北に入ったところの、丘のようになった部分の縁、こんもりと繁った木々のなかに静かにいらっしゃる赤城さん。ここのところ敷地内の社務所だった建物を使ってカフェをやってみたり、神饌料理のお店を出したりしている、古くて新しい赤城さん。
ところが、赤城さんでは御朱印帳というものは扱ってないんだって。残念だ……。
御朱印自体はもらえるようなので、いただくことにした。メモ用紙大の紙に「赤城神社」などの筆文字、そして御朱印が捺してある。御朱印帳が手に入ったら、この紙を貼り付ければいい。
しかし、その「赤城神社」の字のヘタなこと!
いや、せっかくいただいてそんなこと言っちゃあいけないんですが、縦の四文字の並びがやや右曲がり。字も、ややよれた細い線で構成されている。雑に書いたものではなく、まじめに書いてくれたのにヘタなのだからしょうがない。
帳面がなくてはたよりないので、つづいて毘沙門さんに行くことにしました。飯田橋駅から神楽坂の急坂をのぼった先、商店街のまんなかに位置する、門前の路上がなぜか花屋さんになっている毘沙門天善國寺。
まずはおまいりをして、お寺の様子を眺める。赤城さんと違って、ここにはあまり来たことがありません。たくさんつり下げられた絵馬には、やけに蛍光ペンや派手な色の字が目につく。ハングルも多い。なんでしょうか。
「ニノが元気で活やくできますように」「今年も二宮くんにたくさん会えますように☆」「嵐大好き」
ああ……こんなところにまで!
一年前、神楽坂を舞台にしたテレビドラマが放映され、その主役がジャニーズアイドルの嵐・二宮和也だったので、実はここのところすっかり神楽坂は「ニノ」の街、ドラマの聖地となってしまったんです。そのことにはうすうす気づいていたけれど、まさか絵馬までこんなことになっているとは。はるばる韓国からここまで来て「聖地」に絵馬を残していく女の子たちまでいるんだ。
なんとなく呆けてしまう気を取り直して、寺務所とおぼしきところに向かったものの、どうも閉まっているようです。あら、こっちもダメですか。どうしようかな。
すると、後ろから「どうしました?」と声をかけられた。
振り向くと、小柄でパーカーのようなものを着た、スキンヘッドの若い男性がいました。ヒップホップでもやってそうな風体です。
「あ、あの……ここ閉まってるのかなって」
「何かご用ですか?」
この人はなんだろうと思いつつも、私は御朱印帳を買いに来たことを一応説明しました。
「すいません、いま開けますね」
あ、この人、スキンヘッドというより、単に剃髪しているのか!ここの、お寺の人か!
ヒップホップの彼は寺務所を開け、御朱印帳を出してくれました。毘沙門さんオリジナルで作ったものではなさそうでしたが、シンプルなオレンジの表紙に金の糸で模様がつけてあり、かわいいです。彼は私の目の前でさっそくその一枚目を開き、真剣な顔で慎重に、筆で神楽坂の「神」の字からゆっくりと書き始めました。
これも……これもまた、ヘタだ!
ヒップホップの彼は眉が太く、南国風の濃い顔をしている。その彼が大きな目を見開いて、じっくり「毘」「沙」から「門」へと書き進めているけれども、すでに三文字の大きさはまちまちで、縦軸も大きくずれている。
文字を書き終えて御朱印を捺すと、彼は一仕事終えたという顔になり、笑顔で帳面を渡してくれました。
その後数年に渡って使うことになる私の御朱印帳には、はじめのページに縦軸のずれたぶさいくな「毘沙門天」の字が、その裏には頼りない太さの「赤城神社」の字が仲良くはさまっています。

