少年タケシ

ゴロツキはいつも食卓を襲う





はじめに


朝餉のごはん、昼は弁当。
ビスケット添え紅茶、コーヒー付きドーナツ。
手にはりんご、いつもポケットに木の実。
カクテルで乾杯、一気飲みならストレートウオッカ。
貧しいパンとスープ定食、あるいは豪華な晩餐会。


画像に登場する古今東西のさまざまなフードたち。
これらは、いったい、どのように扱われているのでしょうか? 
ちなみにここで言う「画像」とは、主にまんがやアニメ、絵本、映画、テレビドラマ、CMなどのことで、さらに言えばノンフィクションではなく、人間によって創造されたフィクションもの(物語)を指しています。
わたしの場合、小さな頃から、画像として描かれた食べ物が、なんだかやたらと気にかかる子供でした。
この食べ物、おいしそう……物心ついたときに読んだ絵本にはじまり、なにせずっとそうでしたから、もちろん、最初はそのことに無自覚でした。
普通にみんなもそうだよね、と思っていましたから。
だけど、ある程度おとなになって、昔読んだまんがや観た映画、ドラマについて、友達としゃべったり、つらつら思い返してみたりすると、普段はぜんぜん記憶力がない人間なのにも関わらず、わたしは「食べ物が出てきたシーン」に関してのみ、他の人より深く感応していたり、その場面を中心に記憶が鮮明だったりするな、ということに気がつきました。
そこではじめて、あ、わたしって食べ物に興味があるんだ、というか、食べ物のことが好きなんだ、とわりと自覚するようになったわけです。
その上、長じては、お菓子研究家を名乗り、食べ物を職業にしてしまったわけですから、そんな経緯からしても、やっぱり人並み以上に好きだったのは間違いないのでしょう。
話を戻します。
さて、食べ物に興味があるということを自覚すると、それ以後は意識的に、趣味の一環として、映画やまんがに登場するフードを鑑賞するようになっていきました。
やりだすと、これが俄然おもしろい。
あ、ここのシーンでも食べてるよ、とか発見すると結構楽しいんです。
画像に登場するフードは、いつもどのように扱われているのか? 
そこに注目しながら鑑賞してみると、画像には至るところに食べ物描写が溢れているのだ、ということに気がつきました。 
だったら、そこにはなにか、ある一定の法則のようなものが存在するのではないか? 
そんな仮説のもと、わたしなりに長年鑑賞(というか観察)した結果は、ざっくり説明しますと、今のところこうです。
物語において、フードを上手に登場させると、登場人物の性格や感情、置かれた状況を、鑑賞者へ伝達するのにきわめて有効、スムーズに働きます、ということです。
そう、フードは人間の機微を伝えるための優秀な装置として機能を発揮し、また、物語において、キャラクターの特性を一目で表すためのアイコン的な役割をも果たしている、というある種の法則のようなものがおぼろげに浮かび上がってきました。
それらを総称して「フード理論」と呼んでいます。
さらに、わたしが勝手に「フード理論」と命名したそれは、どうやら、三つの原則にまとめられる、という結論に至った次第です。
それが「フード三原則」です。
ちょっと横道の逸れますが、なんで3つなのかというと、別に誰かに命令されているわけではないのですから、すべては自分次第、考えればたぶん、5か条とか7鉄則でも当てはめられると思うのですが、子供の頃に「アシモフのロボット三原則」という概念を知って以来、三原則という言葉が好きなのでした。
三原則、なんか、かっこいいぜ、というノリです。
それに数字は、なるべく少ないほうが、簡潔だしね。


***************************
フード三原則
1 善人は、フードをうまそうに食べる
2 正体不明者は、フードを食べない
3 悪人は、フードを祖末に扱う
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物語においてフードは、たいていの場合、このようにフード三原則にのっとって扱われているんじゃなかろうかと考察しています。
とまあ、そんなふうに「フード理論」遊びをやっていましたら、別のことにも気がつきました。
それは、「いろんな物語で、よく似たフード表現が繰り返されてる」という事実です。
ある場面で、あるフード表現が登場したとします。
すると、
これは前にもどこかでたしかに観た、
それも一回じゃない、
何回も観たことがある、はず、はずだ、
だって、この状況、覚えているもの、絶対に、
だけど何で観たのか、
いつ観たのか、
まるきり思い出せないぞ、
あ、もしかして、あのまんがだったか?
いや、映画か、ドラマか、CM、アニメ、絵本かも、
ともかく、そのどれか……
脳内会議が喧々諤々とするような現象を体験したことがありませんか?
ある種、デジャヴにも似た、あの感じ。
原因はもちろん、前述したように「いろんな物語で、よく似たフード表現が繰り返されてる」からです。
わたしは、これを「ステロタイプフード」と呼んでいます。
たとえば、このフードシーン。


ゴロツキが食卓を襲う


どうですか?
明確には思い出せない、だけど、確かに過去に何回も観ていませんか?
観た記憶が残っていませんか?
これがわたしが言う「ステロタイプフード」の代表例です。
この新連載では、次回から、様々な画像に登場する「ステロタイプフード」を、毎回ひとつずつ、ご紹介していきます。
なんと、まんが家のオノ・ナツメさんによる素敵な挿画を添えて。
しかも、すべてこの連載のために、描き下してくださるのですから、自画自賛的で恐縮ですが、凄い!です。
光栄です。
オノさん、快くお引き受けくださり、ありがとうございました。
身が引き締まる思いです。
原稿、がんばります。
わーい!
なんて、ほんわりとこの幸せを噛み締めながら、家族団らんで夕餉の食卓を囲みつつ、ついでにご飯も噛み締めていたら、突然、どんどんどん!!!と怒濤の勢いで、裏木戸を叩く音がするではないか。 
もう夜半、今時分、夕食どきになんだろう?と、わたしが、かんぬきを外しに、箸を置いて立ちかけたそのときです。
「やい、やい、やい、やい、てめえら、いねえのか」
ドスのきいた怒鳴り声と共に、裏木戸をどかんと蹴破られ、引き戸がばたんと転がり落ちました。
ちなみに、ゴロツキを漢字で書くと「破落戸」です。
文字通り、破落戸に戸を破り落とされたのです、って巧いこと言っている場合じゃない。
ひー。
だけどやっぱり、こうでなくっちゃね。
待ってました、十八番。
そう、ゴロツキはいつもこんなふうに食卓を襲うものなのです。

福田里香

 



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itabashi
福田里香(ふくだ・りか)

お菓子研究家。
まんがのイメージをお菓子にしたレシピ&フード評論本「まんがキッチン」(アスペクト)の出版をきっかけに、まんが関連の仕事が増える。著書に「カクテルアラモード」(白夜書房)、「お菓子と果物の手帖」(ヴィレッジブックス)など。新刊に「フレーバーウォーター」(文化出版局)がある。

ブログは「まんがも別腹」。
http://fashionjp.net/creatorsblog/fukuda/

オフィシャルサイト
http://www.yendesign.com
itabashi
オノ・ナツメ

1977年生まれ。
2003年にweb「COMIC SEED!」(ぺんぎん書房)にて『LA QUINTACAMERA』でデビュー。
2009年『リストランテ・パラディーゾ』(太田出版)がテレビアニメ化、続いて2010年『さらい屋五葉』(小学館)がテレビアニメ化され、幅広い層の支持を集める。
現在、「モーニング2」(講談社)にて『つらつらわらじ』、「マンガ・エロティクス・エフ」(太田出版)にて『逃げる男』を連載中。
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