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The 批評対談

「#MeToo」 セクハラ騒動…テレビが伝えきれないハリウッド

DATE : 2018.02.24(土)

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ハリウッドの大物プロデューサーによるセクハラ疑惑騒動に端を発した一連の騒動。SNSを通して、多くの著名人たちが自身の被害体験を発信する「#MeToo」運動が広がった。さらに、今年のゴールデン・グローブ賞授賞式ではセクハラ行為への抗議を示した女優たちが黒いドレスを着用。レッドカーペットが黒一色に染まった。
こうした動きは日本のメディアでも報じられた。ハリウッドを知る映画ライター森田真帆氏は日本のテレビの伝え方をどう見ているのか。パックンマックンのパトリック・ハーラン氏が斬りこむ。

森田氏は1998年に渡米後、映画やテレビの制作現場でインターンとしてドラマ「ソプラノズ」や北野武監督「ブラザー」など、ニューヨークやロサンゼルスの様々な制作現場を経験。帰国後は映画情報サイト「シネマトゥデイ」の記者として、500人を超える映画スターへのインタビューや映画祭の取材などで活躍している。

本題に入る前に、まずは3月5日に発表されるアカデミー賞について、映画ライターとしての注目作を聞いた。
森田氏があげたのは「スリー・ビルボード」と「シェイプ・オブ・ウォーター」の2作品。
中でも、イチオシは「スリー・ビルボード」。アメリカの片田舎で起きた、警察官、娘を殺害された母親、警察署の署長の3人の人間模様を描いた物語。映画ライターの森田氏をして「今まで観てきた作品のなかでも、かなり打ちのめされた作品。役者さんがとにかく素晴らしい。今、話していても泣きそうになるくらい」と絶賛。パックンも「ここまで熱弁されると観ないわけにいかない」と興味をそそられた様子だった。

もう一つ、アカデミー賞で注目されそうなのが「#MeToo」のセクハラ騒動。女性蔑視のハリウッド社会に異論を唱えようと女優たちが団結。森田氏は、ゴールデングルーブ賞ではオプラ・ウィンフリーさんが心に響くスピーチをしたように、アカデミー賞でも女優たちがどういうスピーチをするのかにも注目したい、とした。

19歳のときに渡米し、テレビや映画の現場にいたという森田氏は自らの体験を振り返り「ビキニのようなタンクトップを着て現場に行ったら、男性の監督とプロデューサーにそんな服を着ているのはよくない、ハリウッドはセクハラがあるから気をつけなさいと注意されたことがある」とセクハラをめぐるエピソードを明かした。

なぜこれまで表に出てこなかったハリウッドのセクハラ問題が、今になって表面化し、大きな社会現象になっているのか。
森田氏によると、発端は去年10月、映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタイン氏による、女優などへのセクハラが大々的に報じられたことがきっかけ。ワインスタイン氏は映画監督のクエンティン・タランティーノを発掘したことで知られ、「恋におちたシェイクスピア」「シカゴ」など多数の映画を製作してきた大物プロデューサー。当時、ハワイにいた森田氏は、テレビ番組でワインスタイン氏をめぐるセクハラ騒動を大きく伝えているのをみて「これは大ごとになるぞ。何かが始まる」と肌で感じたという。
実は、ワインスタイン氏のセクハラ問題は以前から噂されていたとパックン。2013年のアカデミー賞では、司会者セス・マクファーレン氏がワインスタイン氏のセクハラを題材にジョークを飛ばしたこともあった。(5人の助演女優賞候補を読み上げた際、「これで君たちはもうワインスタインを好きなふりをしなくてもいいね」と暗にセクハラを匂わせ、アカデミー賞会員が集まる会場からどよめきが起こった一件。)
森田氏によると、これまでセクハラが明るみに出なかったのは、ワインスタイン氏が契約書を書かせたり、女優にもセクハラを明かしたら潰すぞと脅したりと「力」で押さえつけてきたからだという。しかし、ここにきて、被害者が一人、また一人と勇気を持って声をあげたことで実態が表面化した。
「#MeToo」の動きはハリウッドからはじまり、メディア、企業、政府まで広がりを見せている。最近ではトランプ政権の高官2人が、元妻へのDV疑惑で辞任に追い込まれた。
そもそも「#MeToo」のきっかけを作ったのは女優のアリッサ・ミラノ。ツイッターで、セクハラを受けた体験、自分が心に傷を負った経験を「#MeToo」というハッシュタグをつけてシェアしようと呼びかけ、瞬く間に世界中に拡散したという。
一方、「#MeToo」運動に否定的なトランプ大統領。「証拠もない、有罪になったこともないのに辞任に追い込まれて人生が終わるのはもったいない。けしからん時代だ」とツイート。辞任した高官の肩を持つような内容で擁護した。
「#MeToo」ムーブメントは過剰反応では?との意見もあるというパックンの問いかけに森田氏は「異論はもちろん出てきている。でも、忘れてはいけないのは男性社会のハリウッドで抑圧されてきた女優たちが声を上げたこと。この勇気を忘れてはいけない」と応じた。
アメリカは平等社会というイメージがあるなかで、ハリウッドは今でも男性中心の社会という側面が。パックンによれば、キャスティングプロデューサーがソファーのある部屋で女優を呼んでオーディションをし、出演と引き換えにソファーで性的関係を強要する、いわゆる「キャスティング・カウチ」という言葉があり、この日本の「枕営業」の強要のようなことがハリウッドでも蔓延していたというのだ。
「#MeToo」運動でセクハラ被害を受けている一般の女性も声が上げやすくなった。しかし、日本ではそのムーブメントが起きているとは言い難いとパックンは指摘する。なぜ運動が広がらないのか、森田氏は「日本では(組織のなかで告発しても)勇気がある、素晴らしい、ではなく“面倒臭い人"になる。迷惑だから辞めてくれという感じの風潮がある」と日本の現状を分析した。
パックンによれば、アメリカでもかつてvictim blaming=犠牲者を非難する、という風潮があり、数十年前から問題視されてきた。日本では被害女性の声にきちんと耳を傾けようという運動が始まったばかり。心ない二次被害に苦しむ女性たちも多い。日本で「#MeToo」運動が広がるのは2、30年後かもしれないとパックンの厳しい指摘。これに森田氏も「悔しいが少しだけ日本は遅れているかもしれない」と応じた。

アメリカで女性に投票権が与えられたのは約100年前、フェミニズム運動は六十数年前、そんな長いスパンを経ての「#MeToo」運動。パックンによると、高校生の頃ふざけて女性トイレに入るだけでも法律で罰せられるなど性的犯罪をめぐる厳しい教育を受けてきたという。一方、日本ではセクハラの教育は「全くない」と森田氏は語気を強めた。高校2年生の息子はセクハラ教育を受けていない。その代わり母親として、例え女性が酔いつぶれたとしてもどうこうしようとするのは間違っている。きちんとタクシーに乗せて家まで送り届けなさい。女性の「やめて」に対し、「いいじゃんいいじゃん」ではない・・・など、今から言い聞かせているとした。
これにパックンは「嫌よ嫌よも好きのうち」という男女の仲を表す日本の言葉を持ち出した。これに森田氏が応じ、外国の人が日本の女性に「ダメ」と言われると、「OK」とすぐ手を引っ込める。しかし、本当に「ダメ」の意味ではないと伝えるとパニックになっていたというエピソードを明かした。
すると、パックンはハーバード大学時代に広まった運動を紹介。「No means No」という運動で「嫌」というのは「嫌」だ。女性と関係を持とうとしても「嫌だ」と言われたらやめなければならないというもの。この運動が広まるまでは、嫌といわれても強引に押してみる風潮があったという。さらに、最近では「大丈夫ですか?」と同意を求めるのが当たり前に。「イエス」と言われなければ関係を持ってはいけないとまでアメリカの教育が進んでいるという。

セクハラ騒動をめぐる日本のテレビの伝え方について、朝の情報番組を見た森田氏は、番組で「日本でも監督とかプロデューサーの枕営業とかあるじゃないですか、気をつけなきゃダメですよね…」などとまとめていたことに強い違和感を覚えたという。勇気を持ってセクハラの実態を発信した人たちに対して、「枕営業」という結論に持っていくのはとても失礼。そもそも「枕営業」が作られた社会の話をしなければならない。ワインスタイン氏に「オーディションをするから部屋にきてくれ」と呼ばれて行ったらオーディションではなくセクハラが目的だった。そんな被害を受けた女優たちが何人もいる。その事実関係について責任を持って報じない日本のテレビは、「勇気を振り絞って声をあげた女性たちに失礼、同じ女性としてめちゃくちゃムカついた」と報じ方に疑問を呈した。
パックンはハリウッドでセクハラ騒動が一気に広まった背景として、アメリカのエンタメ界での女性の地位向上をあげた。プロデューサーなど権力を持つ女性の割合が3分の1まで増えてきたことでセクハラの実態が明かされる“化学反応"が起きたというのだ。
すると、森田氏は情報番組のMCが男性に偏っていることに首を傾げた。傍にいるアナウンサーがMCと平等かというと、そうは見えない。コメンテーターもMCに気を使った発言が目立つ。とくに、朝の情報番組を観ているのは、家事をする主婦が多いはず。なのに、なぜMCは男性ばかりなのか。女性をまじえてもっとざっくばらんに議論を深めていかないと先には進まない。
「男と女はすれ違いしかない」とした上で、「話し合いをしないと問題は解決しない」と情報番組の伝え方に意見を述べた。
パックンは伝える側の一人として、我々の価値観から変えていく、社会を引っ張る存在になっていきたいとした。
最後に、性的価値観と向き合えるオススメの映画を聞いた。
森田氏があげた映画はジョディー・フォスター主演「告発の行方」。露出度のある衣装でエロチックなダンスをして挑発したことから集団レイプに遭った一人の女性が、加害者などからの二次被害に傷つきながらも立ち向かう物語。セクハラとレイプの違いはあるが、今の「#MeToo」運動に通じるテーマを内包されており、いろんなことを学べるのではないかとした。
パックンは、ハリウッドは病んだ社会の“病原"でもあるが、「映画」はその“治療薬"にもなり得る、と結んだ。


GUEST
森田真帆 / 映画ライター
1980年、東京生まれ。1998年に渡米。NYで映画監督リー・タマホリのアシスタントとして、ドラマ「ソプラノズ 哀愁のマフィア」の制作現場に関わる。その後、LAに渡りウィル・スミス・エンタープライズにてインターン。北野武監督のロサンゼルスロケなどさまざま映画製作の現場を経験。2000年に現地のアメリカ人男性と結婚し息子を出産、現在はバツ2のシングルマザー。帰国後は株式会社ウエルバ(現シネマトゥデイ)の専属ライターとしてブラッド・ピット、トム・クルーズ、キアヌ・リーブスら、これまで国内外500人以上のスターにインタビュー。カンヌ国際映画祭やベネチア国際映画祭なども取材。現在は「シネマトゥデイ」記者として活動しながら、ライフワークとして大分県別府市の「別府ブルーバード劇場」の番組編成を務めるほか、同劇場の盛り上げ役として様々なイベントを企画している。
著書に「崖っぷちのハリウッドライフ~まほのハリウッド日記」。

COMMENTATOR
パトリック・ハーラン / パックンマックン


 

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