新・週刊フジテレビ批評

The 批評対談

教育改革は今どうなっているのか?

DATE : 2018.01.27(土)

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改訂された学習指導要領が去年3月に文科省から公示され、英語の授業が小学3年生からスタートするなど教育界に及ぼす大きな変化が注目されている。今回の改訂が実施される2020年に向けて取り組みはどう進んでいるのか…
受験シーズンまっただ中!この大きな節目に向けて、“教育"をテレビはどう伝えていけばいいのか、フジテレビ報道局の鈴木款解説委員に中央大学の松野良一が斬り込む。

専門の経済のほかに、教育問題をライフワークとして取材を続けている鈴木解説委員。去年2月に出演した際、新たな学習指導要領の主な変更点として「英語学習の強化」と「アクティブ・ラーニングの導入」の2つを挙げていた。その後の現状はどうなっているのか?

まずは英語学習の強化について。
一般的な議論としてよく言われるのは小学校のうちは外国語よりもまず日本語をしっかり勉強する、という意見。しかし、鈴木解説委員が調べたところ、9歳から11歳は臨界期…耳で聞いたことをそのまま話せるといわれる時期。つまり小学校3年生は外国語に親しむのにちょうどいい時期となるとした。
また、イギリスの調査によると、英語教育を行う65カ国のほとんどの国が小学校1年からスタートさせている。小学校3年からスタートさせているのは、主にアジアの国々。中学校からの日本は、中国や韓国からもかなり遅れている現状だといえる。
さらに、アメリカの国務省のデータを元にした推定によると、日本人が英語を日常会話レベルで話せるようになるには2500時間の学習時間が必要。いま日本の中学や高校で教えているのは800時間程度にすぎない。いくら中学と高校で英語を勉強しても喋れるようにはならないことになる。その意味でも小学校の早いうちから英語に親しむのは必要ではないかとした。

一方で、英語を教える先生の問題も。
国は来年度の予算で、英語を専門に教える先生を1000人採用することを計画。しかし日本全国で小学校の数は2万校。まだまだ絶対的に足りないのが現状だ。
解説委員は去年暮れ、すでに英語教育を始めている埼玉県戸田市にある小学校を取材。戸田市は英語特区として認定され10年以上前から小学校で英語を教えている。授業は、先生と英語をネイティブに話せる外国人の二人体制。先生に話を聞くと、外国語を話せる人がいるだけで子供たちのモチベーションがあがるという。異文化を経験して英語を話す人が前にいると何か話してあげよう、何か聞こうという気持ちが生まれてくるというのだ。
戸田市の教育委員会ではこうした英語の授業を積極的に地域の人に公開。子供たちが英語を喋ってるのを見せることで、実に7割の地域住民が小学校で英語の授業することに肯定的だという。
地域の理解、学校側の体制、そして、子供たちが英語を楽しく学ぶこと。英語をその小学校のときから親しんでもらうことは必要だとした。

解説委員による英語学習の現状分析と意見に松野氏も続いた。
海外の大学生と交流すると、どの国の人も英語がうまい。韓国や台湾、ベトナムのコンビニに行くとアルバイトをしている学生がみんな英語を喋ることができる。その英語力の高さに日本の学生はショックを受けているという。その姿を見ると、小学校3年生から下手でもいいから英語を喋るトレーニングはやった方がいいのではないかとした。
東南アジアの日本企業を調査すると、会話はすべて英語。。現地の人にどこで勉強したのか聞くと、YouTube。英語が公用語の企業も多くモチベーションにつながっていて、 YouTube でも十分スキルアップできるのだ。
すると、鈴木解説委員は英会話のアプリを紹介。こちらから英語を喋るとどこの発音がよくないか指摘してくれるといい、これから英語を教える先生が不安や自信がない発音があったら利用してみるのもいいのではないかとした。

続いて、変更点の2つめ「アクティブ・ラーニング」の現状について。
アクティブ・ラーニングは、教員による一方的な講義とは異なるもので生徒が主体的に学ぶ授業のこと。現状の授業は基本的に先生が一方的に教えるもので先生が黒板に書いて生徒がノートに書き写すスタイルをとっている。しかし、一番身につくのは人から一方的に教えられるものではなく自発的に学ぶこと。さらに、学んだことをアウトプットすること。 人に教えたり、プレゼンテーションしたりすることで学んだことが吸収されていく。鈴木解説委員によると、これをやれという具体的なカリキュラムはないという。
東京都の八王子の弐分方小学校では、教科ではなく学校の行事や学級活動でアクティブ・ラーニングを取り入れている。1年生は1年生で集まるのではなく、1年生から6年生まで縦割りのチーム編成に。目立たない子や身の置きどころのない子がいても、グループの5年生や6年生の高学年が面倒を見てリーダーシップを発揮するようになる。昼休みの時間になると、これをやろうと決めてみんなで遊ぶというようになっていく。それを見た下の子たちが5年生や6年生になると、ちゃんとおにいちゃんやおねえちゃんの振る舞いができる子に育っていくというのだ。
こうした事例を引き合いに出して、鈴木解説委員は「学校や地域によって いろんなやり方があっていいのではないか」とした。

一方、松野氏はアクティブ・ラーニングの問題点を指摘。最終的には受験が控えているのでアクティブ・ラーニングばかりしていいのか。知識の吸収がないでのはないか。先生の負担も大きく、準備がちゃんと進んでいるのか不安の声があがっているとした。
鈴木解説委員は「受験の時期が迫ってくると、これ(アクティブ・ラーニング)やってていいの?と親がだんだん不安になってきたりする」と松野氏が述べた問題点の指摘に同意。その上で「入試自体も一緒に変えていかないといけない。今回2020年の教育改革っていうのは大学入試改革でもある。そこを変えていかないと教育全般が変わらないのが現状」と分析した。

では、大学の入試制度は今後どう変わってくのか。
鈴木解説委員によると、「センター試験」は名前が変わって「共通テスト」になるが、マークシート方式を半分か、何割かに減らし、その分記述式の問題を増やしていくかたちになるのではないかという。英語は「読む」と「聞く」の2 技能 に、「話す」「書く」を加えた 4技能へ増やすかたちに。
暗記重視で行われてきた大学入試は、「AI」や「IT」など知識を補填するものが増えていくなかで「思考力」や「判断力」といったものが必要とされるようになっていくとした。

ここで松野氏は大学入試で今TOEICやTOEFL、英検といった外部検定試験が活用されている現状を取り上げた。今後も増えていくのか、鈴木解説委員は「民間試験の活用には受験料がバカにならなかったり、県庁所在地にしか試験会場がなかったりといったところもある。地域格差、経済格差がなく、なるべく公平になるように文科省は動いている」とした。
すると、松野氏はAO入試の可能性を取り上げた。早稲田大学や慶応大学ではAO入試を増やしている。これは東京大学に落ちたからではなく、初めから早慶にくる学生を取りたいという狙いがある。新しいかたちのAO入試が生まれる可能性について鈴木解説委員は「テスト一発ではなく、『思考力』や『創造性』を試す試験を導入するなど変わってきている。AO入試といえば一般入試で入学してきた学生に比べて学力が劣るなどと言われてきたが、言ってみればアメリカの大学などの試験に近くになってくる気がする」と述べた。
アメリカでは、一回の試験ではなく内申書や履歴書、面接などで、ちゃんと大学で勉強していけるかどうかを重視する。スポーツは何をしてきたか、ボランティアでどんな活動を行ってきたか、どんなアートをやってきたかなどを通して、大学に貢献してくれるかどうかを見る。というのも、アメリカの大学生は1日8時間勉強しないとついていけない。スポーツが優秀だから大学でもやってほしいわけではなく、スポーツをしてきたことで自分をコントロールできる技術を持っているかどうかを見ているのだという。
アメリカでは卒業生の平均年収が公表される。それを授業料で割りコスパを算出した数字で大学が評価されるという。そのため、大学側も必死なんだとか。
    
松野氏によると、中央教育審議会は現場で働いた経験を持つ実務科教員を一定数入れる方針を打ち出しているが、大学の最前線では生かされていない現状があるという。その上で、専門職大学が今後、どう発展していくか興味深いとした。この発言を受けて鈴木解説委員も「少子化のなかで大学はこのままでは生き残れない。個性を出していかないと学生に見向きもされなくなるので、日本の大学も必死だと思う」と応じた。
また、前回の衆院選挙では「高等教育の無償化」が大きな争点となった。鈴木解説委員によると、文科省は教育が選挙の争点になることなどなかったので喜んでいたという。しかし、そもそも与党、野党ともに教育改革を取り上げた結果、高等教育の無償化は争点にならなかった。全員無償化にするのか、所得制限をかけるのか、など今後の国会で取り上げられる課題とした。

続いて、テレビが伝えるべき教育問題について。
鈴木解説委員がまず指摘したのは、先生の働き方改革。学習指導や生活指導、いろいろな調査のペーパーワーク、部活動、保護者によっては離婚相談までしてくるケースがあり、時間がいくらあっても足りないのが現状だという。今後はアクティブ・ラーニングなどで益々学習指導に専念しなければならない環境になっていく。そのなかで、先生の長時間労働をどう解消していくか、アウトソーシング(外部委託)の導入などが必要になってくるのではとした。続けて松野氏も、外国の教育現場に行くと「日本の部活動」の存在に驚かれるというエピソードを明かした。
鈴木解説委員がニューヨークに赴任していた頃、子息が現地の学校へ通学。先生は基本的に学習だけ。ソーシャルワーカーがいたり、ペーパーワークが専門のアシスタントがついたりとアウトソーシングが確立していたという。部活は地域の活動として行われていた側面が大きく、テニスなら元選手など地域の経験者が指導。日本の部活のように、テニスをやったことのない先生がテニスを教えるようなことはなかったという。
さらに給料の問題もあると鈴木解説委員。先生の給料は法律で決められていて基本的には残業代込み。勤務時間や残業といった観念自体がないのだという。そのため、タイムカードを導入しようという動きもあるにはあるが、1割程度にとどまっているのが現状だという。

こうした教育現場の現状を踏まえた上で鈴木解説委員はユニークな取り組みをしているサンフランシコにある中学校を紹介。全米で最も革新的な授業といわれるミレニアムスクールの校長が日本の教育関係者と意見交換をしたいと来日。
話を聞くと、意欲、忍耐力、コミュ二ケーション力など社会に欠かせないものを育てる学校とのこと。いわゆる教科の学習は4分の1くらい。残りの4分の3はプロジェクト学習にあてているという。
プロジェクト学習は、あるテーマを決めて研究、議論してプレゼンまで行うもの。例えば、Designer Baby。遺伝子操作によっても赤ちゃんを作り替えるような技術が進むなかで、果たしていいことなのか、悪いことなのか、6週間かけて子供たちが研究して議論してプレゼンまで行う。プレゼンのときには、親も呼んでさらに議論を進めるという。 また、多様性を重んじていて、ADHD(注意欠如多動性障害)や識字障害、低所得家庭の子供も受け入れているという。
アメリカの教育をめぐって松野氏も続いた。「ここからここまで自分で読んできてくださいと宿題が出て一生懸命読んでくる。そして学校にきたらもうディスカッションから始まる。分からないところがあればみんなで教えてあう」。つまり、アメリカの授業は先生に学ぶのではなく、ディスカッションが前提。読み方やわからないことはYouTubeなどで全部調べてから授業にのぞむのだという。日本の場合、先生が教えて、かつアクティブ・ラーニングもやることになる、逆に負担になるんじゃないかと松野氏は心配する。
すると鈴木解説委員は、アメリカ人は人前で話すことに慣れているが日本人はシャイだと指摘。小学1年生からアクティブ・ラーニングを導入して自己主張する能力を身につけておくことは大切だとした。

最後に、教育問題は視聴率がなかなか取れない分野だが視聴率に結びつけるにはどうすればいいのか、という松野氏の問いに鈴木解説委員は「きょう一番難しい質問」としながら次のように答えた。
「子育てをやってるときは、教育には非常に関心を持つが、子育てが終わってしまうと途端に関心がなくなる。そういった意味ではテレビも視聴率を取るのはひとつの目標であるわけで非常に厳しいところはあると思う。ただ、子育てが終わっても子どもたちの教育は国全体で考えるべき問題。例えば、子どもが成長して、我々の年金も払ってくれるわけで、決して終わったからもう自分のことじゃないよとは思わずに考えていただきたい」とした。
フジテレビでは、去年ゴールデンタイムに教育問題をテーマに3時間特番を放送。好評を得た実績がある。テレビとして今後も教育問題に取り組むべきだと結んだ


GUEST
鈴木 款 / フジテレビ報道局 解説委員
1961年北海道生まれ、神奈川県育ち。早稲田大学政治経済学部卒業後、農林中央金庫に入庫し外為ディーラーなどを務めた後、1992年フジテレビ入社。営業局、報道局「報道2001」ディレクター、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。ライフワークは教育取材。趣味はマラソン、トライアスロン、映画鑑賞と国政選挙分析。三男の父。

COMMENTATOR
中央大教授 松野 良一(まつの りょういち)
 

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