新・週刊フジテレビ批評

The 批評対談

2017衆院選 テレビ報道を振り返る

DATE : 2017.10.28(土)

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自民と公明が合わせて3分の2をこえる313議席を獲得した2017年衆議院議員選挙。その選挙戦では小池都知事が希望の党を結成。民進党合流の動きとともに、与党の対抗勢力になりうる可能性として注目を集めた。しかし、小池都知事の「排除いたします」の発言を機に、野党は分裂した。日々、状況が変わっていった選挙戦をテレビは多くの時間を割いて伝えた。その報道時間は、前回2014年の衆院選の倍以上に増加したというデータも。今回テレビの伝え方はどうだったのか…
東京工業大学准教授で社会学者の西田亮介氏をゲストに、中央大学教授の松野良一氏が斬りこむ。

西田氏は1983年京都生まれ。 慶應義塾大学大学院出身で情報技術とジャーナリズムを専門として研究。「メディアと自民党」など多数の著書があり、テレビのコメンテーターとしても活躍している。

まずは、衆院選関連のテレビの放送時間が12年、14年過去2回の衆院選を大きく上回ったことについて。
10月24日付の毎日新聞によると、NHKと民放各局が公示日から投票日前日の12日間で、合計の放送時間が合わせて84時間43分となった。前回の2014年衆院選は38時間21分。前々回の2012年衆院選は61時間45分。時間としては、今回選挙関連の報道が大幅に増えたことがわかった。
これについて西田氏は「14年も突然の解散だったので比較するのは難しいが、12年と比較しても放送時間が伸びている。なかでも、情報・ワイドショー系の放送時間が大きく伸びているところが注目に値する」と指摘。
松野氏も「テレビで取り上げる材料がたくさんあった。自民党の対抗軸として希望の党、民進党も合流というところで「排除」発言があって、立憲民主党が立ち上がった。報道番組だけじゃなくて情報・ワイドショー系の取り扱いが多いということは、それだけ話題性があったということじゃないかと思う」と続いた。
では、なぜ情報・ワイドショーの放送時間が大幅に増えたのか。
西田氏は、ふだん政治に関心がない人でも、政党が分裂したり「排除」発言があったりと、選挙に興味を持つような出来事がたくさんあった、これらのことが重なって放送時間が伸びたのはないか、と分析した。
さらに選挙戦そのものについては…
西田氏は一般の人たちにとっては「政治に関心を持つチャンスだった」と指摘。その一方で、今回の選挙で起きたことをどのように捉えていいか難しかったのではないかとした。地方組織がしっかりして下から積み上げていくのがこれまでの選挙のあり方だったが、今回は風頼み、あるいはワイドショーなどでどのように取り上げられるかを意識したような選挙運動が行われていたように感じたという。

続いて、今回の衆院選で重要な位置を占めたネットメディア戦略について。
西田氏は「2013年に公職選挙法の改正があって、インターネットを使った選挙運動がかなり広範に認められるようになった。 今回、(改正後)何度目かの国政選挙ということで、各政党、候補者もかなり入念に準備をして挑んだように感じられた」という。例えば、自民党は秋葉原で最後の演説をやった映像をその日のうちに編集してインターネットで公開していた。立憲民主党は、ソーシャルメディアでグッと親しみを引くような発信をしていた。特に若い世代の感性に訴えかける工夫をしていたというのだ。
松野氏も続く。SNSは候補者の立ち会い演説会や街頭演説などをリアルタイムで発信できる。これが結構効果があったと分析。例えば立憲民主党の場合、漫画家の小林よしのり氏の応援演説をスマホで撮影した人がSNSにアップ、拡散されて話題になった。お金をかけなくてもスマホで撮影して簡易編集してSNSにアップする。若者向けのネットの選挙運動がうまくいったケースとして取り上げた。
 ただし「注意する必要がある」と続けた西田氏。選挙後の調査をみると、若年世代の支持は全体的には与党の方に傾いていたという指摘がある。ネット選挙運動の「効果」については少し冷静に考えなければいけないとした。

続いては、テレビの選挙報道はどうだったのかについて。
求められるのは、公平であること。2月のBPOの放送倫理検証委員会が「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」をまとめた。ポイントはこの部分、
「選挙に関する報道と論評に求められるのは 量的公平性(形式的公平性)ではありえず、必然的に質的公平性(実質的公平性)となる」
これをテレビ局がどう受け止め、向き合っていくのか。
松野氏は記者やディレクターをやっていた体験と重ね合わせた。松野氏が現役の頃は、公示後は候補者全員を取り上げ、取り上げる時間を同じにしなさい、というムードが漂っていたという。量的公平性にこだわっていたからだ。
ところが今回BPOが求めているのは質的公平性。注目選挙区や政策の対立点については、ちゃんと報道して、評論をし、有権者にわかりやすく解説するべきとしている。松野氏は、政策対立などを取り上げるときには、どうしても特定政党のプラスに働くし、マイナスに働くこともあるので結果的に萎縮してしまっている現状はあると質的公平性の難しさを語った。その上でBPOの指摘はメディアの現場への「激励文」みたいなものと受け止めた。
西田氏も「テレビの制作現場に目を向けると、『質的公平性』という概念は難しい側面を含んでいて判断しにくい」と続いた。BPOの意見書には「取材で知り得た事実を偏りなく報道し、明確な論拠に基づく評論」の記述もある。西田氏は「偏りなく」に注目。質的公平性を説明するのに、「偏りなく」と書かれているが、どのような状態が「偏りがない」のか定義されないまま用いられている。これでは実践するのはかなり難しい。一方、量的公平性はわかりやすい。時間で管理すればいいので説明もしやすい。質的公平性は報道の自由の観点でも、意識せずに番組を作るという意味でも重要。しかし、実現性を持たせるのは難しいとした。
松野氏によると、昔は公示後も注目の選挙区など取り上げていたが、ある頃から公示後に各党首の映像を使う時に、映り込む候補者の名前を消したり、顔を出さなかったりと、選挙に直接影響を与えない配慮をするようになった。ただ、それではあまりにもわかりにくい複雑な状況になっていると現状を分析した。

選挙報道のバランスについて。
西田氏は1つの例として、あるテレビ局で、当選するのが難しいと思われる人たちを候補者の名前一覧では表示したが、映像は使わなかったことを挙げた。候補者の一部が落ちてしまっているようで、知る権利が叶えられたとは言い難い。このような問題も抱えているので、質的公平性をどうするかが問われているとした。

「希望の党」に関する報道について。
当初は過熱気味だったが、公示後は落ち着きを見せた…。これについて西田氏は「紙一重でよかった」と評価した。小池都知事の「排除」発言でマスメディアの論調が冷静になったのでは?という。小池氏の発言、ふるまいを見ていると、テレビメディアを意識していた側面が強かった。もし“小池劇場"が上り調子のままだったら、追い風になるようなモードになってしまっていた可能性はあり、そこは懸念すべきこととした。

テレビには面白い番組づくりを優先する側面もあるが…。
松野氏は「政見放送は量的公平性であり立候補した人の主張をそのまま流す。それ以外にマスメディアの報道における量的公平性は果たしてどこまで必要なのか。その時々の政策の違いや政局の動き、 これからどうなるかというきちんと報道すべきところに集中するのはしょうがない」と“面白い"番組作りについて肯定的な見解を述べた。
一方で、西田氏と同じく「小池劇場」になっていた可能性を指摘。本当に伝えなければならない憲法改正や安全保障、福祉問題などが欠け、情報番組やワイドショーも「面白いほう」に流れてしまった。そこは反省すべきじゃないかと指摘。政策に対する報道が少なく劇場型の報道が目立った印象だったとした。
西田氏は、小池都知事の「排除」発言によってテレビ各局が政策の比較などを急にやり始めるようなったという見解を述べ、これが「紙一重でよかった」とするポイントだとした。

今後の選挙や政治をめぐる報道はどうあるべきか。
西田氏は、「今回、改憲を主張している政党がかなり多くの議席を取ったことで憲法改正が現実味を帯びてくる。このときに制度の違いを意識しておく必要がある。通常の選挙運動は公職選挙法という法律に基づいて運用されているが、国民投票は国民投票法という別の法律で運用される」と次に目を向けた。
国民投票法は、選挙資金の制限が乏しい、テレビCMは投開票前の2週間を除くと認められている、選挙カーの台数の制限がない、など様々な制限が緩い特徴を持っているという。憲法改正、あるいは護憲の影響を受けない人はいないので、冷静に、事実に基づいた報道がなされる必要があると指摘。
松野氏も「お金を持っているほうがどんどん運動できる状況になる。(国民投票になると)なおさらメディアの視点、切り方、あり方が重要になってくる。きちんと報道し、解説し、投票の時に判断できるような報道を期待する」と締めくくった。

最後にメディアが公平性を保とうとする姿勢について。
西田氏は「及第点だった」とした上で、「主体的なものだったか」については疑いが残る、として今後の課題に挙げた。


GUEST
西田亮介 / 東京工業大学准教授
社会学者。東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。博士(政策・メディア)。専門は公共政策の社会学のほか、情報と政治、情報社会のジャーナリズム、無業社会等を研究。1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。同助教(有期・研究奨励U)、(独)中小機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大大学院特別招聘准教授などを経て、現職。著書に『メディアと自民党』(角川書店)『ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)ほか多数。

COMMENTATOR
中央大教授 松野 良一(まつの りょういち)
 
 

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