新・週刊フジテレビ批評

The 批評対談

2020年 日本の“ポジティブ”な未来

DATE : 2017.09.30(土)

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世界初の感情認識パーソナルロボットPepperの会話エンジン開発からパラリンピックサポートセンターのデザインに至るまで、広告、IOT、ロボティクスなど多岐にわたる事業を行う1→10(ワントゥーテン)。1997年創業時から指揮をとってきたのが社長の澤邊芳明氏だ。18歳のとき、バイク事故で手足の自由を失う。そのハンディをポジティブに捉え、24歳で1→10を起業。今や9社からなる企業グループにまで成長させた。
「それっておもしろいの?」
そう問いかけ、手掛けてきた作品は国内外で150以上の賞を獲得。その発想の原点は、自らを「ポジティブイノベーター」と称し、ネガティブな考えをポジティブに変えていくことにある。

「『できない』じゃなくて、どうやったら実現できるんだろう」

西山喜久恵アナが1→10のオフィスを初訪問。澤邊氏が描く日本の「ポジティブ」な未来を聞いた。

東京、京都、そして海外を拠点に幅広い事業を手がける1→10。西山アナが訪ねたのは、引っ越したばかりの東京オフィス。どんな事業を行っているのか、澤邊氏の案内で西山アナが体感していくことに。まずは「ANATOMe2」。人体を一瞬で3Dスキャンする最新装置だ。西山アナは立っているだけ。その周りを3台のカメラが内蔵された柱が回転しわずか5秒で3Dスキャンが完了。服のシワひとつまで精密にスキャンされたリアルな「分身」が誕生した。これには西山アナも「気持ち悪いくらい自分」とびっくり。短時間で3D化されたことにも驚いた様子だった。カメラに搭載されている深度センサーが、体を立体的に計測している最先端技術の結晶。近い将来、ゲームキャラクターとして登場させてリアルな動きをつけられるほか、ファッションや医療にも役立てることができるようになるという。

次に体感したのは、おもちゃ。子会社の1→10ドライブが開発したプロトタイプでの試作品が並ぶなか、まずはAR=拡張現実の技術を使ったゲームに挑戦。画面を通した現実世界に、次々にモンスターが出現。スナイパーとなって射撃していく。
もう一つは、一見ただの双眼鏡。覗いてみると世界各地の風景が。しかも360度の世界。これはバーチャル空間へ行くことができる「トラベリングスコープ」。360度映像を表示させたスマートフォンを内蔵することで、バーチャルな世界旅行が実現。
他にも、シャボン玉をシュパッと斬る感覚を楽しめる「バブルチャンバラ」やスマホが入ったまわしに反応し、ジャンプすると紙相撲が動く装置などユニークな試作品を次々に生み出している。夢中になって楽しめたという西山アナは「発想は低学年の子供」という感想を持ったのに対し、澤邊氏は「エンジニアは基本子供の心を持ち続けている。こんなことがあったらよかったという思いを叶えている」と応じた。

続いては、パラスポーツの体験エリア。車椅子型の乗り物でVR体験ができる「サイバーウィル」は障害者スポーツをよりおもしろく、いろんな人に体験してもらいたい、という思いから開発。最高時速60キロにもなる車椅子レースの世界をリアルに再現した。ヘッドマウントディスプレイを着けて体験した西山アナは「楽しい!スピード感がすごい」と興奮した様子。今まで子供を含めて3000人ほどが体験。その面白さと選手のスゴさに気づき、見に行きたくなった、応援したくなったという声があがっているという。
さらに、リオパラリンピックで日本代表が活躍し注目されたボッチャを近未来型に発展させた「サイバーボッチャ」も体験。見た目がオシャレなだけでなく、ボールの位置をミリ単位で計測し、点数を自動で計算してくれる。澤邊氏は「理想はデートで使えるボッチャ。パラスポーツというと、障害者スポーツで特定の人のものっていうイメージが強いけど、いろんな日常、レストランとかカフェとかバーとか商業施設においてもらって普通に体験してもらえるようにしたい」とビジョンを明かした。

澤邊氏率いる1→10は、リオパラリンピック閉会式のフラッグハンドオーバーセレモニー「ポジティブスイッチ」のコンセプトや、パラリンピックサポートセンターのデザインなど、パラリンピック関連の仕事も手掛けてきた。
自身のポジティブスイッチが入ったのはいつだったのか?
澤邊氏は18歳のとき、バイク事故で手足の自由を失う。スイッチが入ったのは事故から2年目のことだった。「もうオレは車椅子でも障害者でもない。オレはオレだ。『受け入れない』と決めたんですよ。そしたら急にポジティブになれて。」
一般常識であれば、現実を受け入れてから次のステップに進むところ。だが…。
「治ることを考えるのではなく、生きていく。仕事をするし大学に戻るし普通に人生を楽しむんだと思えたんです。」
その考えに至るまでどう気持ちを整理していったのか?
「答えのない悩みが一番嫌い。答えのないことを悩むならもう忘れた方がいい。よく社員にいうのは、あした隕石が落ちてくると思ったらその悩みって要る?」
すると社員は「どうでもいいですね」と悩みが消えてしまうのだという。澤邊氏は続ける。「答えのない悩みに縛られるより、それだったら気分を切り替えて面白いことを考えようってすごく実践してますね。」そしてもう一つ、実践しているコトとして、考えていることの「言語化」をあげた。「言霊ってすごくあると思ってて、やりたいことを言い続けてると叶うんですよね。誰かに言うと、あの人だったらできるかもしれないよと点と点がつながっていく。」そんな「やりたい」の集団が1→10だという。



澤邊氏は「澤邊の部屋」と称して月に何度か社員たちにやりたいことを聞く時間を設けている。例えば「ある芸能人と一緒に仕事がしたい」と言ったら会えるルートがないか探す。「野球がやりたいです」と言ったら「野球の仕事あったな。じゃあそれ入る?」と仕事を振る。やりたいことがある社員にどんどんチャンスを与えるのが1→10のやり方だという。

今や750人を束ねる企業グループのトップとなった澤邊氏。当初は10人規模の会社になればいいかくらいに考えていた。そもそも障害があり「働ける」とは思っていなかった。だがインターネットとの出会いによって道が拓いた。ウェブサイト制作からスタートし、様々な技術を磨いていった。そして今では、京都水族館のクラゲ水槽の空間を企画・プロデュース・制作といった仕事も。クラゲの水槽にプロジェクションマッピングをして幻想的な世界を演出している。

活躍の場は多岐にわたる澤邊氏、2020年東京オリンピック・パラリンピックのアドバイザーでもある。自身の境遇もありパラリンピックへの思いは強い。目下の心配は客席が満席になるか。ロンドンは満席だったがリオは半分くらいチケットが売れ残り、無償で小学校に配っていたという。先進国としてガラガラになることだけは避けたい。
そんな澤邊氏から仰天のアイデアが飛び出した。
「新国立競技場の開会式で、太陽をうまく表現に使いたい。競技場の上に人工の日食を起こせないかと。人工の太陽、その周りに人工の月をおいて競技場から見上げると日食が起きる…」
開会式で日食を起こしたい。これには震災などを乗り越えて、2020年から新しい日本が始まるというメッセージが込められているという。しかし、まだ技術的な問題で実現するかどうは不透明だ。それでも口に出して言うのが澤邊氏の信条。「こうなったら面白い」を先にいうことで道を拓いてきた。「『できない』じゃなくて『どうやったら実現できるんだ』。エンジニアは基本『できない』が必ずくるんで『できるできる』と。そのポジティブスイッチを入れるのが大事。」今の日本には大企業病が蔓延。技術的に積み重ねることは得意だが、海外のイノベーションカンパニーのようにまず大きなビジョンありきで「そこに向かっていこうぜ」というビジョンが足りないといのだ。
テレビの現状については「自主規制に縛られちゃってる。でも、できることはある。テクノロジーを組み合わせて見たことのない魔法を生み出すことに期待してるし見てみたい」とした。社員がやりたいことを叶えられる時間を会社で持てる、そこから面白いものを引き上げて実現させる。そんなボトムアップ型にしていかないと今後のテレビは厳しいのではないか、とした。
イノベーションのサイクルは10年と言われたが今は3年くらいになっている。近い将来は2年くらいになる。その中で、できること。「夢を描いて、それに適応できる技術を探していくほうが効率はいいし、面白い」

パラスポーツを伝えるテレビの役割については、テレビのおかげで理解は進んだ反面、これまではお涙頂戴的なものや選手の頑張りにフィーチャーしたものがほとんどだった。スポーツそのものがどれだけすごいか、面白いかまでは伝えきれていないと感じるという。東京オリンピックまであと3年。今後はもっとパラスポーツ自体の魅力の部分でファンを獲得するための役割がテレビなどのマスメディアにあるのではないか、とした。


2020年、日本はどうなっているのか。
「日本のみんなが自信を取り戻して世界に役立つものを作れるように。2020年がそういう良いターニングポイントになればいいなと思います。」
東京が面白くてエキサイティングで外国人が住みたくなる街に。これが、澤邊氏が描く日本のポジティブな未来だ。


GUEST
澤邊芳明
株式会社ワントゥーテンホールディングス代表取締役社長
1973 年東京生まれ 京都工芸繊維大学卒業後、1997 年にワントゥーテンデザインを創業
現在は広告クリエイティブ事業、ロボット/AI 事業、IoT/商品プロトタイプ事業、空間演出/エンターテインメント事業の 4事業を展開、9 社からなる企業グループ「ワントゥーテンホールディングス」を率いる
その他、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アドバイザー、日本財団パラリンピックサポートセンター顧問、超人スポーツ協会理事等を歴任

社会通念を破壊し、当たり前を疑うことから生まれるポジティブなエネルギーを持ったイノベーションを起こすことをミッションとしている

COMMENTATOR
上智大 音 好宏(おと よしひろ)教授

 
 

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