新・週刊フジテレビ批評

The 批評対談

軍事情報をテレビで伝える意義

DATE : 2017.05.13(土)

CATEGORIES : | The 批評対談 | 報道・情報 |



4月15日、北朝鮮で故金日成主席の生誕105年に合わせ、軍事パレードが行われた。核実験や弾道ミサイルの発射等、北朝鮮の挑発への警戒から軍事的緊張が高まっている。
アメリカ、中国、ロシア、日本等、各国の思惑が北朝鮮を巡り交錯する中、軍事情報をテレビが伝えることにどんな意味があるのか。またそこから見えてくる国際情勢とは?
フジテレビ報道局の能勢伸之解説委員は早稲田大学を卒業後、1981年にフジテレビに入社。記者として防衛庁・防衛省・外務省等を担当。現在は防衛問題が専門の解説員の他、フジテレビのインターネット・ニュースメディア「ホウドウキョク」で「週刊安全保障」という番組を担当している。
昨今の北朝鮮情勢のニュースについて「中にはかなり不安を煽るような感じのものもあって、どこを信頼したらいいのかと思いながら、いつも見ている」という江川氏。
その指摘に対し、能勢氏は「そういう価値観はあるのかもしれないが、今何が起きているのか、具体的にどういうことが進行しているか。それをできるだけ間違いがないように伝えるということの方が最初だろうと思う」と答え、さらに「結論を急いでいるメディアも多いのかもしれない」と同意する部分も見せた。

フジテレビ社内で「軍事のことは能勢に聞け」と言われている能勢氏は、軍事評論家の宇垣大成さんに「テレビ局というものは映像を扱う。映像を扱うということは、その映像を読めば、そこからいろんな情報が出てくる。だから比較的外国の通信社の文章をそのまま読み解く、日本語に直すというよりも、映像そのものを見てそこから情報を拾い出したほうが良い」と言われ、その考えに賛同しているという。

軍事評論家や軍事ジャーナリストらは特に湾岸戦争の頃からテレビの中で存在感を増してきた。その湾岸戦争は「NINTENDO WAR」などとも言われ、ミサイルでポイントを攻撃する映像がたくさんテレビで流され、それに対する批判も起こった。
江川氏は「兵器の能力や戦術も大事だけれども、その中、あるいはその下にいる人々のことが非常に気になる」とした上で、「まずは戦争にならずに、戦争を防ぐにはどうしたらいいのかということが大事な訳で、それが外交。そういう中で軍事情報を伝える、あるいは知ることの意義というのはどういうところにあるのか」と尋ねた。

能勢氏は「人間関係でも能力と意思というのは非常に重要。相手が喧嘩の強い人だと、その人がどういう意思を持つ人かと気になるもの。その人がいきなり喧嘩を仕掛けてきたらどうするかということもある。国家であっても、相手がどんな能力を持って、どんな意思を持つか。それによってこちらの対応も変わってくる」と各国の軍事力と意思を把握する重要さを説明。さらに「戦争にならないためにはというのは、抑止ということになると思うが、相手国に戦争を起こさせないためにどうするか、というところになってくる。そのために同盟を組む等ということになる。そうすると、相手国や自国、同盟国の軍事力を知ることによってようやく戦争は起きないという考え方、これを抑止という」と述べた。

各国の軍事力を把握するには様々な情報が必要となる。その中には政府からの発表や国会答弁もあるが、政府が表に出さない情報もあり得る。そうした機密について軍事ジャーナリストはどう向き合うのか?
例えば、自衛隊の戦闘機のコックピットや操縦席、戦車の内部は長い間撮影禁止だった。西側諸国は基本的に撮影させるのが通例。当時の航空自衛隊は他国に留学しているパイロットも大勢いたため彼ら自身がそれにジレンマを感じていたという。
日本はF4やF15等、アメリカ製の戦闘機を導入しているが、アメリカとの間で内部をオープンにしてはいけないという契約になっていた。ところが、当のアメリカでは多くの場合、2、3年おきに契約は見直されて、内部の撮影がOKになっていく。日本は最初の契約を守り続け、撮影できないという状況だった。
能勢氏は、このことについて政府に疑問をぶつけて回っていた。そのうち防衛大臣もその件についての関心が高まり、他の国と基準が違いすぎることが問題になるのではないかと考えるようになった。
当時、能勢氏は航空自衛隊の人たちから「航空自衛隊としては今は表には出せないが、撮影できるようにする方向で動き始めている。だから、あなたは絶対に撮影要求を下ろしてはいけない」と言われていたという。
そして、その後、航空自衛隊のトップから公開の命令が下されたのだった。
「機密はオープンにされないと思い込んではいけない」という能勢氏。

また、江川氏は軍事情報や安全情報に関わる情報は外交ともリンクしているのかと質問。
これに能勢氏は「もちろん」と回答。「外交の基礎は安全保障になる。自分のところの安全が確保できなくて、他に何ができるのかということになる」

江川氏はロシアとの北方領土問題を例に、日露関係を軍事情報からどのように分析するかを質問。プーチン大統領が実に素直だと感じたという能勢氏は「オホーツク海には、ロシア海軍のミサイル原潜が展開している。したがってロシア海軍やロシアの安全保障にとって非常に重要なエリア。すると、そこに他の国の海軍が入って来られるような状況を作るわけにいかないため、北方四島の返還においては、そこが問題になってくる」と分析。当然、日本の立場とは異なるため、その妥協点をどういう形にするかがポイントになるという。

続いて、江川氏が質問したのは、北朝鮮問題。軍事パレードやミサイル発射実験がテレビでも報道されているが、そこからはどういうことが読み解けるのか?
能勢氏が日本にとってショッキングだったというのは、KN17というスカッドシリーズのミサイル。先端部に小さな翼が4枚付いていて、その根元は1本の棒で付けられているので、向きが変えられると予測される。スカッドミサイルは弾道ミサイルの基礎的なもので、打ち上げ後は、単純な軌道を描いて落ちていくが、この小さな翼を持つことによって、着弾前に向きを変えたり、動き回るかもしれないとも考えられる。そうしたミサイルを作ることで、北朝鮮が目指しているのは何か?
「ひとつには軍艦を狙う可能性。もうひとつは、在韓米軍が配備しているパトリオットという地対空誘導ミサイルをかわすためではないかと見られる」と能勢氏は語る。ただ、KN17は射程距離がわからない。「日本に届くような射程だったならば、日本のPAC3によるミサイル防衛をかわすようなミサイルかもしれないという問題も起きる」
なお、ICBMについても様々な資料が出てきたが、それに関しては日本よりも、アメリカにとっての問題だという。

また、北朝鮮の軍事パレードには、張りぼてのミサイルも混じっているとの情報もあるが、これについて、能勢氏は「張りぼてというよりは、本物のミサイルと全く同じ大きさ、重量や機能を付けた訓練用の機材が多い」と解説。他の国にも同様のものがあるという。
ただ、それらのミサイルの実物が完成しているか否かについては不明とのこと。

こうした装備については、過去の映像と見比べることで情報を補っていく。
「今回のパレードではKN08を乗せている移動用の発射機がいきなり変わった。以前ムスダンを乗せていたような車両に乗ってきている。それによって、北朝鮮の思惑を読み取る」という能勢氏。「とにかく、まず映像から考えるしかない。実物を見られれば一番良いが、それが叶わないならば、どんな映像がきているのかというところから考える必要が出てくる」

では、そうした兵器の映像等はどうやって集めているのか?
様々な手段がある中で、能勢氏はSNSからの情報収集などを例に挙げ、「先日も担当しているホウドウキョク『週刊安全保障』に、たまたまロシアのウラジオストックにいた人から『夜、急にロシア軍のパレードの予行練習があった』『街中をミサイルを載せた車両が走っていた』と画像が送られてきた」と明かした。
こうした軍事情報の入手に関しては「基本的には敵味方があるので、相手の情報を自分たちが発表すると責任問題になる。しかし、第三者に発表させることによって相手を叩くことができるということもある。そういうやり方を特に西側諸国ではよくしていた」と内情を語った。

ホウドウキョク「週刊安全保障」は、1週間に起きた日本周辺や世界の軍事的な動きを中心に伝える番組。活字情報よりも映像で伝えることに主眼を置いている。
番組で最近伝えたニュースで能勢氏が印象に残っているのはイラクでの出来事。VHS2というあまり知られていない自動小銃がいきなり現れてきた。これは能勢氏も視聴者に指摘されるまで気がつかなかったといい、武装勢力が使っていて、クロアチアが生産している極めて新しい自動小銃だと分かった。「昔から武器は隠された外交関係をあらわにするが、まさにその典型になると思って見ていた」という。

情報の中には、オーソライズされておらず、どこまで正確か分からない情報もある。能勢氏が使っているのは、全世界規模の衛星通信社の映像がほとんど。それから視聴者から投稿されてくる映像や画像も使っている。例えば、沖縄でたまたま視聴者が撮影したアメリカ陸軍の装備の映像があり、それについてMMLなのかそれともPAC3MSEのランチャーなのかと議論になっていた。結果、PAC3MSEのランチャーらしいというところで落ち着き、番組で紹介している。
視聴者の中にも情報を持っている方が多いため、そうした方たちの力を上手く使えたらいいと考えている、という。

そこで江川氏は、信頼できる情報と疑うべき情報を見極めるヒントを尋ねた。
能勢氏は「基本的には映像、画像に何かが映っていること。あとは兵器の画像と名称をどれだけ詳しく知っているか。それによって見分けることはある程度できるのだろうと思う」と述べた。

ただし、映像を読み解く上で個人の癖が出るため、その癖を利用した合成などを施された画像や映像には気を付けなくてはいけないという。
例えば、能勢氏の場合は、戦車、装甲車の類に惹かれる傾向がり、かつ、どちらかというとアメリカ系の戦車、装甲車の方に興味が向いてしまうという。「そのため旧ソ連系、ロシアの戦車、装甲車に関しては、基本的な知識のレベルがそれほどでもない。そういったところを利用して加工した画像を流してこられると厄介」と自己分析した。

そして、江川氏は改めて、「今テレビで伝えるべき軍事情報とは」について質問。特に北朝鮮をめぐる情勢が注目されている中で、能勢氏が伝えていきたいことは何か?

能勢氏が注目しているのは、やはり弾道ミサイル。
「北朝鮮のノドンは弾頭部の爆発物以外にもいろいろなモノが積まれているので、非常に危険。燃料と酸化剤にはかなりの劇物が使われているため、攻撃を受けた際、空から落ちてくる危険性も考慮しておく必要があるのではないか」と指摘。
ノドンに積まれている抑制赤煙硝酸は、身体のどの部分に接触しても組織を破壊する。
さらに、非対称ジメチルヒドラジンは引火性が高く、飲み込むと有毒。皮膚に接触しても有害で、吸入すると命にも関わる。
さらに、能勢氏は「弾頭部は分かれて落ちていく可能性があるが、後ろのロケット部分が落ちてきても、自衛隊や警察、消防でない一般の方はできるだけ近づかないようにすべき」と念を押す。
ノドンは射程が1300kmとされており、韓国を飛び越えることになる。しかし、アメリカには届かない。そのため標的は、その間にある所ということになると能勢氏。

一方、江川氏は、「ミサイルを持っているということと使うということにはすごく距離があると思う」と持論を述べた。
能勢氏は「その距離があるのかどうか。北朝鮮の場合は延坪島砲撃事件を起こしている」とリスクを考慮する必要性を提示。「北朝鮮はノドンの発射装置を50両近く持っている。50発ほぼ連射できるかもしれない。かつ、それ以上のミサイルの数があるようなので、それを何回も繰り返して発射できるかもしれない」とも付け加えた。

そして、テレビで重要になる軍事情報の伝え方に関しては「とにもかくにもできるだけ正確に伝えていくこと」と語った。
江川氏は「政府の情報発信に対するチェックも能勢さんたちの大事な役割だと思う」とし、政府のチェックもしっかり行うことを要望し、締めくくった。


GUEST
能勢伸之 / フジテレビ報道局解説委員
昭和33年生。早稲田大学第一文学部卒。フジテレビ入社後、防衛庁、防衛省、外務省の担当記者のほか、ロンドン支局長を歴任。現在は報道局解説担当役。著書に「防衛省」「ミサイル防衛」(新潮新書)、「弾道ミサイルが日本を襲う」(幻冬舎ルネッサンス新書)、「東アジアの軍事情勢はこれからどうなるのか」(PHP新書)等。

COMMENTATOR
江川紹子(えがわ しょうこ)ジャーナリスト



 

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