新・週刊フジテレビ批評

The 批評対談

高校生が演劇で表現した福島の”今”

DATE : 2017.03.11(土)

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2月4日、東京都内で高校生による演劇が上演された。『数直線』と題したその劇を演じたのは、福島県立ふたば未来学園演劇部の13人の部員たち。その内容は彼らの境遇や実際にあったエピソードを台本にし、演じたものだった。
6年前に起きた東日本大震災で被災した彼らの綴る物語は、震災や原発事故に翻弄されてきた彼ら自身の体験が描かれ、ほぼ実話の、震災を描いたオリジナル脚本だ。実体験を題材にし、自分自身で考えたというそのセリフには、観た者がハッとさせられる“強さ"があった。この劇を観た西山喜久恵アナも、「何かいろいろな思いをして、いろいろなことがあって、本当に素直に受け止めている彼ら、彼女らがすごくダイレクトに伝わってきた」と感想を述べた。
東日本大震災から6年となる今回は特別企画として、高校生たちが自らの手で作り上げた演劇を通じて、何を表現しようとしたのかを西山アナが現地に赴いて取材した。

被災地では復興に向けての様々な取り組みがあるが、現状が変わっていないという方もたくさんいる。避難者数は未だに約12万3000人にのぼる。その内、福島県が最も多く、約7万9000人。現在は段階的に避難指示が解除されてきてはいるが、まだまだ解除されていない地域も多い。その中で今年3月、それらの地域に含まれる福島県双葉郡の5つの高校の休校が決定した。
今回、西山アナが取材したふたば未来学園高校は、福島第一原発から30キロ圏内の双葉郡広野町に一昨年に創設された。そのため現在、生徒はまだ2年生までで、この4月に1年生が入学し、いよいよ3学年がそろう。
この周辺に暮らす子供たちは非常に多いが、未だに自宅に帰れない生徒たちもたくさんいる。その中で、この取り組みを通じてこの子たちが6年前に体験したことを、演劇という形で表現している。
コメンテーターの江川紹子氏は、「6年前だけでなく、それからずっと今に至るまでのいろいろな体験が劇の中に含まれていると思う。あの震災、そして原発事故が起きた時、彼らはまだ小学生だった。ただそういう時期には、いろいろな経験をして思ったり考えたりすることがあっても、なかなかうまく表現できなかったり、あるいは表現できる場がなかったりした。そうやって彼らの中に蓄積されてきたものが、高校生になり、言葉も増え、そして表現力もつき、こういう演劇部という場があって、ようやく今までの6年間の蓄積がここで表現できるようになったということだと思う」と語った。
この劇の主人公は東京から福島に転校してきた松田咲良さんという女の子。だからこそこの演劇を是非、東京の人にも観てもらいたいということで、東京公演が実現した。
『数直線』というタイトルに込められた意味、そして演じ続ける高校生たちの思いを取材すべく、西山アナはふたば未来学園を訪れた。

ふたば未来学園高校は、福島第一原発の事故で双葉郡にあった5つの高校の授業再開の目途が立たなくなったことから2015年4月に新設された県立高校だ。
実はこの高校はちょっと注目されている学校で、福島が抱える課題を自分たちで考える授業が行われており、各界の識者たちが訪問授業を通して支援を行っている。
『ふたばの教育復興応援団』として、福島県双葉郡の教育復興を応援する各界の有志が授業に協力しており、これまでにも予備校講師の林修氏、元プロ陸上選手の為末大氏、クリエイティブディレクターの箭内道彦氏などが実際に訪問授業を行っている。
そして去年、フジテレビのCSR活動(企業が社会に対して責任を果たし、社会とともに発展していくための活動)の一環で、西山アナと佐々木恭子アナも『インタビューの極意』という訪問授業を1年生に向けて行っていた。
これは特別講師の一人である劇作家の平田オリザ氏の授業の一部で、『復興への課題』をテーマに地元の人々にインタビューを行い、それをもとに半年間かけて劇にするという取り組みだ。西山アナと佐々木アナは地元住民へのインタビューを前に、そのコツを生徒たちに教えた。そしてその後、東京電力や広野町役場、駐在所など、13カ所でインタビューを行い、『福島の課題』をテーマに実際に劇が作られた。
こうした『福島の課題を考える授業』が週4時間行われている。ふたば未来学園の南郷市兵副校長は、「テーマはそれぞれ選べるが、毎週4時間なので、非常に大きな時間をかけてそういった活動を行っている」と述べた。震災をきっかけに生まれた学校だからこそ、地域の課題解決が学校の最も大切なテーマとなっているのだ。

そういった授業の取り組みと並行して、演劇部の部活動でも16人の演劇部員たちは自ら創作劇の題材として震災を選び、今回の劇『数直線』が作られた。
“震災"を題材に選ぶきっかけについて、脚本と演出を担当した佐藤美羽さん(2年)は、「先生が出張先の岩手で地元の人から、『もう帰れない人はいないんだよね』と言われたと聞いた。近いと思っていて共感できることが多いと思っていた人からそう言われて悔しかった。現実が何も知られていない、と思った」と語った。
そうして最初に、部員たちの境遇や体験を語り合うことから始めた。「震災に対してどう思っているのかなんて全く知らないし、むしろ聞いてはいけない気がしていた。辛い経験があって入ってきている人が多いと思っているから、そこは触れてはいけない領域だと思っていた。だけどそれでも話を聞いて、みんなで輪になって話したりした」と佐藤さんは当時を振り返った。
そして明かされた部員たちのエピソードや体験をもとに、『数直線』の台本が作られた。台本を見てみると、各地を転々とした避難生活のこと、避難先で受けたいじめのこと、家が取り壊された時の悲しみなど、実際の体験がそのままセリフになっている。
それはいざ演じる時には、やはり辛い思いが伴ったという。実際に劇中で、『演劇部を辞めたい』というセリフがあった関根颯姫さん(1年)は、「本当にあった気持ち。すごく震災がなかったらいいなと思っていて、震災のことを思い出して劇をやっている時でも、苦しくて練習中に泣いてしまった時もあった。それが本当に辛すぎて嫌だった」と当時の心境を語った。
部長として演劇部をまとめてきた出雲優花さん(2年)は、「震災を扱うこと自体、結構、葛藤もあった。やりたくない子もいたし、部活自体を休む子や体調に支障をきたしてしまう子もいた。その子たちにあった出来事や被害などを考えてしまうと申し訳なさも少しはあったが、それ以上にやらなきゃいけないという気持ちが強かった。お互いに気を遣う、ではなくてむしろぶつかり合うことが多かった」と始めた当時を振り返った。
まだ帰還が許されていない地域に住む人が部員の中にも3人。その他、避難先でのいじめの体験など、辛い震災の記憶がまだ生々しく残っている。それでも、そういった体験も劇に盛り込み、学校での公演から演劇コンクールの地区大会、県大会へと上演を進めていった。
そして福島県高校演劇コンクールで優秀賞を受賞。震災を演じる辛さを抱えながら、話し合い、演じ続けていくうちに、彼らの心境に変化も生まれてきたという。
劇をやるのが辛いと言っていた関根さんは、「校内公演から地区大会、県大会、いろいろな人に観てもらえて自分たちの本当の気持ちを伝えられるのがうれしかった。これからも震災の劇を続けていきたいと思う。来年の1年生が反対しても“絶対に震災の劇をやるから"と言う」と笑顔で語ってくれた。
今回主人公を演じたのは、東京で生まれ育ち、都内の中高一貫校を辞めて福島のふたば未来学園に転校してきた松田咲良さん(1年)。主人公を自分自身と同じ人物設定にした松田さんは、「私は震災に直接かかわっていないから、他の人たちの話を聞いてびっくりしたというのを表すしかなかった。他人事だった東京人が双葉郡に住む話として演じていた」と語った。

そして2月、初めての東京公演が行われた。2日間で3公演のすべてが満員となり、西山アナも観劇に訪れた。「私たちが普段感じていない部分を、福島のふたば未来学園の子供たちがどういう風な感性を持って、考えを持っているのかというのも伝わる作品になっているのではないかと、とても楽しみにしている」と西山アナも期待を寄せる。
そして開演――東日本大震災が発生した時刻の時報から演劇は始まる。主人公は東京から転校してきた1年生の咲良、彼女を中心に物語は進んでいく。咲良はクラスメートから避難先でのいじめの実体験を聞かされる。そして“他人事(たにんごと)"という言葉で責め立てられてしまう。
この“他人事"というセリフを関根さんは、「『咲良はさ、“他人事"なの』というセリフの“他人事"がすごく好きで。他県の人は“他人事"に思いすぎなのかと思う。福島と何の繋がりもない人たちは、福島の本当の現状を知らないのかな、と思う」と語った。
一方、言われる側の松田さんは、「そんなことは思っていないのに、“他人事"なんでしょ、と言われるのは辛かった。分かってあげられないことは分かってあげられないし、でも分かる努力はしなきゃいけないと思う。一番辛いシーンだけど一番見てほしいシーンでもある」と思いを語った。

劇中には自分たちの実際の境遇や思いが語られる場面が出てくる。その中にはもちろん避難生活の話もあり、中でも特に西山アナの心に響いたのが、何でも言葉の最後に“ありがとう"をつけるという『ありがとうゲーム』のシーンだ。原発事故や震災、津波、決して感謝などできない言葉につけられた“ありがとう"。実は脚本を担当した佐藤さんが最も大切にしたセリフだという。
「“ありがとう"ってそんなに万能な言葉ではない気がして、すごく重い言葉だなというのを改めて感じたので入れた。流れていくセリフが多いと思うが、その中でもひときわ目立ってほしいと思う言葉だったから」と佐藤さんは語ってくれた。
そのセリフを託された青木壱成さん(2年)は、どんな思いを込めたのか。「最初の2つ、『地震と津波、ありがとう』『原発事故よ、ありがとう』は、少し本当に“ありがとう"の意味のまま思っていた。それはこの学校にいられて、友達もいるから」と語る青木さん。
確かにすごく不幸な出来事ではあったが、この学校に来られていろいろな友達にも出会えたことには“ありがとう"と思えるという。そして「最後の『家に帰して、ありがとう』は、“この野郎"とかそんな感じの気持ちで言った」と、青木さんは複雑な思いを述べた。

この劇には“今"の気持ちを表現するある仕掛けがある。それはタイトルにもなっている『数直線』だ。震災の日から現在までを1年ごとの『数直線』で表現し、自分の気持ちが今どこにあるか、その位置まで移動してその思いを語るというもの。
しかし台本には決められたセリフは書かれておらず、アドリブで自分の気持ちを表現する場面となっている。高校生たちはそれぞれに今の素直な気持ちを表現していた。
公演終了後、主人公を演じた松田さんは、「いじめとかすごくありえないし、放射能がうつるって何?って感じです。ちゃんと福島のことについて子供たちに教えないから、そういうことがあると思っているので、ちゃんと福島のことをみんなが知ればそういう問題もなくなって、颯姫みたいな思いをする人もいなくなると思います。福島についてちゃんと考えるという機会は、東京にいる人はあまりないと思うので、今日、お願いします」と訴えた。
劇の指導をした平田オリザ氏は、「相手がどうすれば共感してくれるかとか、どういう風に共感ポイントを作っていくのかが大事なのだということを、演劇は非常に学びやすいツールだと思う。伝え方の工夫を諦めないとか、そういうところが少しでも身についていてくれるといいなと思う」と述べた。

「本当に真正面から自分たちの体験に向き合って、この芝居を本当に一つのツールとして“伝えたい"という、その気持ちがすごく伝わってきた」と語る西山アナ。渡辺アナも、「辛いことも楽しいこともすべて繋がっている中で、『数直線』というタイトルとその中で彼らがアドリブで語る言葉というのが、本当に胸に突き刺さる」と述べた。
江川氏は、「分からないということはやはり原点だと思う。今回の芝居でも東京から来た咲良が、『福島のことを分かっていない』と責め立てられる場面があるが、逆にそこの子供たちは、咲良が何を苦しんでいてどうしてこの福島に来たのか、という気持ちもたぶん分からない。だから本当に、『分かったつもりでも、やはり人のことはそんなに簡単に分かり合えない』というのがよく分かる芝居だったと思う」と分析した。
さらにその上で、「分からないからこそ伝えたい。それならどうしたら少しでも分かってもらえるように伝えられるか、というところから工夫が始まるのだと思う。そういう事をこの芝居を作った人たちはやはり感じただろうし、観る側の自分もそれを強く感じた。そういう意味で“伝えるとは何か"という一番大事なことを、この芝居はちゃんと表現してくれている気がする」と語った。
劇中で『原発事故よ、ありがとう』と言っていた青木さんは、「こうやって3.11の時だけ取材に来られるのは、僕は大嫌いです」と言っていたという。それもまた本当に素直な気持ちであり、だとすれば今後、メディア側はどう伝えていき、どう震災報道に向き合っていけばいいのだろうか?
これについて江川氏は、「3月になると特集を組んでやるというのも大事だとは思う。けれども今や被災地において“被災"が日常化している。その中でなかなか目に見えにくいものもあると思うので、こちらも特別なイベントとしてでなく、3.11と無関係でも構わないので、やはり日常的に伝えるべきだと思う。何かあれば普通のニュースの中で伝えたり、仰々しい特番だけではなく、日常の中で被災地の状況を伝える。あるいはそれを考えさせるようなものが、やはりこれからの番組では必要になってくると思う」と提言した。
最後に江川氏は、「もう一つ、この芝居で非常に面白かったのは、東京にいて震災を現地で体験していない子供が主人公で、その子が福島に行く。つまり彼女にとっては福島が避難先であり、やはり福島が東京で苦しんでいた子供を受け止める場所だったということだ。被災地というと“支援してあげなければいけない"とか、“支援する側、される側"というような関係がよくある。でもそうではなくて、むしろ福島の方が助けてくれることがあったり、福島だからこそ何か特別なものがあったりとか、そういうのもこの芝居は表現してくれている。そういう意味では若い彼らがやるからこそ、こういう発想力が出てくるのだなと思った」と締めくくった。

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