新・週刊フジテレビ批評

The 批評対談

新たなブーム到来! 相撲とテレビ…現状と課題

DATE : 2017.03.04(土)

CATEGORIES : | The 批評対談 | スポーツ |



今年1月の大相撲初場所。稀勢の里が初優勝を遂げ、19年ぶりに日本出身の横綱が誕生。連日メディアで取り上げられ、注目を集めた。新たな相撲ブームが到来していると言われる中、力士や相撲ファンの様子にも大きな変化が起きている。変わりつつある相撲界を伝えるためにテレビに求められることは何か。長年テレビの世界で大相撲を追いかけてきたリポーターの横野レイコ氏に聞いた。

「間もなく始まる春場所のチケットも、発売から2時間16分で完売するなど、相撲界全体が本当に盛り上がってきている」と語る横野氏。実際、この人気に伴って雑誌でも特集記事などが次々に組まれている。横野氏も、「稀勢の里関が新横綱になったことが1つのきっかけで、スポーツ専門誌の『Number』が若貴ブーム以来20年ぶりに大相撲の特集号を発売する。また稀勢の里関以外にも人気力士が多く、今場所の番付を見ても本当に楽しみな力士がたくさんいる。そういった各力士個々のファンも増えている」と現状を述べた。
また、稀勢の里以外の注目力士として挙げたのが新入幕の宇良。「大学時代に居反りの決まり手で話題になり、角界に入門から2年で幕内に上がった宇良関に注目している。また番付で隣に並ぶ石浦関も小兵力士。細い人が“小よく大を制す"というのが相撲の醍醐味でもあり、この春場所で、小兵の宇良関が幕内で巨漢力士をどう倒すかという一番が、たくさん見られるのが楽しみ」と横野氏は語った。

横野氏は芸能も含めて様々なジャンルでリポーターとして活躍しているが、中でも相撲に関してはスペシャリストと言ってもいい。「元々ワイドショーのリポーターで事件も芸能も扱っていた。リポーターを始めた当初は若乃花・貴乃花が入門した時で、子供のころからの相撲好きということもあり、相撲のネタを何とかテレビでやってもらいたいと思ってあれこれ企画を提案していて、それが若貴の藤島部屋への入門発表の時だった。最初の入門時に取材したことを彼らも憶えていてくれていたのもラッキーだったと思う」と振り返る横野氏。「当時は本当に“今日の若貴"みたいに毎日のようにテレビで朝から晩まで相撲の取材をしていたので、相撲ファンとしてはすごく楽しかった。昔はマイクを出しているだけでカメラが必ず一緒に来ていたが、時代とともに経費節約の影響もあり、今は自分でカメラを担いで取材に行くことが多い」と述べた。
スタジオでは横野氏が取材したドキュメンタリー『ザ・ノンフィクション』の一部を流した。「これは遠藤関の密着をしたのだが、それはもうほとんど自分でカメラを担いで取材したもので番組を作った。どうしても大きなカメラで行くと取材対象者も構えてしまうのだが、こういうドキュメンタリーとか密着ものは、小さなカメラで普通に会話しているような感じでこそ素顔が引き出せる部分が大きいので、やはりこういう番組はカメラ持参でということが多かった」と横野氏は説明した。
横野氏が取材してきたこの30年、若貴ブーム、八百長問題など、相撲人気もかなり激しい浮き沈みがあった。これについて横野氏は、「いい取材の時は本当に取材するのも楽しかったが、やはり若貴引退後のスキャンダルも含め、不祥事などもあったのでそういう時は辛かった。しかし報道する立場としていいことだけ取材していてはダメなので、やはり悪いこともきちんと伝えなければいけない、という思いで取材を続けた。“何で来るんだ"というふうに親方たちから言われたこともあったが、それはやはりファンサイトではないので、テレビとか報道はきちんとありのままに伝えなければいけない。“心で泣きながら"と言ってはオーバーだが、そういう想いで伝えてきた」と当時の心境を語った。さらに、「分からない人が相撲の複雑な組織を知らずにバッサリ斬ってしまうよりは、すべてを分かった上できちんと伝えるということが大事だと思ってやってきた」とも。

かつて西山アナも横野氏と一緒に大相撲パリ巡業に同行した経験がある。横野氏に取材のノウハウを教わる一方で、当時は力士と一緒にディズニーランドに行くだけで番組になるなど、華やかな時代だったという。
横野氏は、「今、またそのブームが来つつあるが、あの頃はわりと“大関・貴ノ花の息子"が2人入門して、その期待に応えて2人とも順調に出世していって、空前の若貴ブームが起きたと思う」と振り返った。その上で、「当時はアイドル的な扱いだったが、今の相撲ブームはちょっと違っている。『スージョ』と呼ばれるファンの女の子たちは、相撲の長い伝統とかしきたりにも興味を持っている。だから決してアイドル的な見方をするのではなく、相撲の歴史や文化に興味を持ったり、また呼出しさんや行司さんの方に興味を持つ人もいる。決して一力士だけを見ていない。そういうところが20年前とは違う」と分析した。
若貴ブーム当時はミーハーなファンも多かったが、今はちょっと通な女性ファンが増えたということか。その理由について横野氏は、「時代とともにネットなどでちょっとした歴史とか、何でも調べられるようになったのも大きいと思う。昔はそういうことも調べられず、テレビや新聞が伝える一力士の報道でしか分からなかったが、今は力士自身がツイッターやフェイスブックなど、SNSを通じて自分の日常を発信している。相撲ファンの人はそこにアクセスすれば彼らの素顔が見られる。だからいろいろな力士を好きになる人の多様性が広がっている」と語った。
さらに、「例えば行司さんの事を知りたいと思えばそこで調べれば全部出てくるからその歴史も分かる。そのようにファンの人の知識がものすごく豊かになっているので、こちらもそこに負けない情報を提供していかなければならないのが大変だ。ただ、ネットは広く発信されているが、正しいモノばかりでなく間違ったモノもある。そこの取捨選択を、やはりテレビはやっていかなければいけないと思う」と指摘した。

相撲界独特の『タニマチ』という言葉があるが、同じ力士を応援する立場でありながら、『ファン』とはどう違うのだろうか。
これについて横野氏は、「ファンはあくまでファンであり、タニマチは後援者の方。相撲部屋は決して豊かではなく、関取が大勢いる部屋にしても何十人の力士を抱えていると経営は決して楽ではない。そういうところで、親方の心意気とか力士の稽古を見て、応援したいと思うスポンサーでもある。そういう方が後援会に入って、“関取がいなくてもこの部屋を応援するんだ"という風になっているのが後援会組織」と説明した。
しかし実際、相撲界も色々あった中で、やはりタニマチさんが減る状況もあったのではないか。「やはり離れていく人もいるし、逆に苦しい時も支えてくれた後援者の方もいる。相撲協会はそういう事をすごく大事にしていて、苦しい時を支えてくれた人たちを大切にしたい、ということでずっと歴史が繋がってきている」と語る横野氏。
その一例として、「テレビ放送も今はNHKだけだが、かつては民放各局が放送していた時期もあった。しかし人気がなくなった時期に全局手を引いてしまい、NHKだけが放送を続けた。そして後の大相撲ブームの時にやはり民放も放送したいと手を挙げたが、協会は苦しい時に支えてくれたNHKを意気に感じて、ブームの最中でもNHKだけで放送を続けたと聞いている」と説明した。さらに、「不祥事でチケットが全然売れなかった時代も、お茶屋さんが全部カバーしていた。だから協会としてもお茶屋さんに支えられた部分というのは大きく、そこは外せないということで今も現存している」と述べた。
とはいえ、そのお茶屋さんがあることで、普通のファンにとってはチケットの値段が高く入りにくいということもある。その点について横野氏は、「お茶屋さんにより相撲の伝統とかしきたり、また嗜みなどを知ることができることもある。お土産がつくという点では価格が高くなるが、そういう意味では価格以上の他の楽しみ方もある」と説明した。

インターネット全盛の現代において、相撲界でも何か変化が起きているのだろうか。相撲というとNHKで見るというイメージがある中で、相撲界もネットをうまく取り込んでいるという話もあるが。
「相撲界は古い世界というイメージがあるが、野球界の外国人選手のように、高見山に始まって外国人力士を取り入れ、かなり早い段階からグローバル化している。ネットの世界においても、ソフトバンクが序ノ口からの取組を配信しており、地方出身力士の親御さんも我が子の取組を生で見ることができる」と語る横野氏。
さらに、「相撲協会も独自に『大相撲アプリ』を開発していて、有料・500円のタニマチ会員になると、見たい取組が本場所中の何分後かに見られる。既に春場所の番付もアップされており、稀勢の里関を始め各力士のプロフィールが見られる。また場所以外の時には特集が組まれ、5分程度の番組や入門時からの取組が見られるなど、様々な工夫がされている」と説明。「多くの力士たちがこのタニマチ会員になっていて、取組後に国技館を引き上げるとタクシーや車の中で、今日の自分の取組をアプリを使ってスマホで見ている人も多い。部屋に戻って録画を見るという時代ではなくて、もう車の中で見られるようになっている」と述べた。
他にも各相撲部屋で独自の取り組みが行われている。「各相撲部屋でホームページを作っている部屋がすごく多い。新弟子のスカウトも昔は学校を頼って行なっていたが、今はHPを見て“この部屋に入りたい"と思う子供たちが多い。だから各部屋、とてもHPが充実しており、例えば荒汐部屋は部屋の紹介VTRまで作っている。稽古風景や、ちゃんこを食べたり日常生活を5〜10分のVTRにまとめ、入門希望で見学に来た人たちに見てもらっている。これはHPからは見られず、興味を持った方に見てもらうため」と横野氏は説明した。
さらに、「やはり入門したいと思ったらいろいろな相撲部屋を研究する。今はいろいろな部屋がネットで検索できるし、細かい部屋の紹介VTRをHPに載せている部屋もある。実際入門してくる力士に聞くと、“HPを見て、この部屋が楽しそうだったから"と言っていたりもする。相撲部屋は移籍できないので、その部屋に入ったら引退するまでいなければいけない。だから入門する側も知識として、より一層いろいろと調べてくるので、こういうHPの情報というのは非常に重要なツールになっている」と述べた。
これについてコメンテーターの原田曜平氏も、「今、ものすごい少子化でいろいろな業界が人手不足になっている。特に相撲というのはやはりハードルもすごく高いので昔以上に人手不足になっていると思う。だからこういうHPでの情報発信とか、ネットでの情報発信というのがものすごく重要になっている」と指摘した。
相撲部屋のHPというと、イメージとしてはもう少しカッチリとしたものなのかと思いきや、やはりそこはしっかりと若者の心を捉えるような内容になっている。
横野氏は、「やはり入ってくる子は15歳と若いし、それから後援会に入りたいと思う方も、動画でより分かりやすい方がこの部屋を応援しようという気持ちになる。だからそういうHPの充実はすごく大事だし、内容も日々更新されている」と述べた。

意外に相撲界は想像以上にグローバル化もインターネット化も早いことが分かった。それだけでなく、力士個人でもSNSで面白い発信をしているという。
「ほとんどの力士、幕内上位の力士も発信しているし、下の方の力士も、今はもう10代の子供たちもみんなSNSをやったりする時代なので、それは相撲界も例外ではない。ただ部屋によっては幕下以下の力士はSNSを禁止する部屋もあり、個々にルールは違っている」と語る横野氏。「しかし関取はやはりファン拡大のためにも発信していて、関取になればフォロワーも増えているということで、力士にとってはそれが励みになったりもする。だから巡業先で“ツイッター見てます"と声を掛けるファンもいて、一緒に撮った写真をアップして、“ファンの声援ありがとうございます"とメッセージを送ったりする。どうしても忙しくて手紙を書くことができない時に、SNSを通じて“応援ありがとうございました"と場所の報告をしたりする関取も多い」とその効用を述べた。
また横野氏は、「実は横綱の白鵬関もツイッターをやっていて、昔は横綱が自分から何かを発信するということはなかった。白鵬関はモンゴル出身ながら漢字の変換もきちんとできて、アルファベットではなく日本語打ちをしており、横綱本人はその理由を、日本語の勉強にもなるから、と言っていた。間違った言い方をした時もそのままツイッターで出しているが、それがだんだんと上手になってきている。時にはモンゴル語と日本語の両方で書いていることもある」と語った。
横綱というと、やはり威厳とか品格ということが言われるが、そういういろいろなこともやっている。横野氏も、「だから時代によって力士の考え方が変わっているのだと思う。一方で新横綱の稀勢の里は、『むしろそういう時代の変化で力士がSNSを活用するのは悪いこととは思わないが、やらない力士も今だからこそいてもいいと思う』という考え方で、一切SNSはやっていない。意外に他の力士がツイッターでしか挙げていない情報を知っていたりもする情報通なので、見ているのかもしれないが、自分では絶対やらない」と述べた。

しかし映像はインターネットでも見られるし、情報発信はSNSで、となると、今後テレビが相撲とどう関わっていけばいいかというのは重要な問題になってくる。
これについて横野氏は、「ファンも知識が増えているので、好きな人、相撲ファンの人はネットも見るし力士のツイッターも全部フォローしている。でもそれは好きな人が訪ねて行って見られる情報なので、テレビは相撲を見ていない人、興味のない人の枠を拡大するために重要な役割があると思う。例えばバラエティ番組は相撲好きではない人も見ているが、そこに出演した力士を面白いと思って、次の相撲中継を見てみようと思ったり、場所に足を運んでみようと思うきっかけになるためには重要だと思っている」と持論を展開した。
原田氏も同様に、「テレビというのは、コンテンツ自体は今の時点では視聴者が選べる訳ではないので、たまたまつけた人が運命の出会いというか、“相撲って面白いんだ"と思うきっかけの場としての役割を果たしていくことが大事。一方でインターネットは、もうちょっと興味を持った人がもっと好きな情報を集めていく場に使われていく。このように住み分けができていく」と指摘した。
さらに横野氏は、「そういう中でやはりドキュメンタリー番組も必要だと思う。先日、自分でも遠藤関の番組を制作したが、あれは1年半、怪我からの復活を取材したのだが、そういう取材、番組によって、土俵上では見られない関取の素顔とか、相撲に打ち込む真摯な姿勢とか、そういう事を伝えるドキュメンタリーの番組は、相撲好きでない人にも伝えるという意味で非常に重要だと思う」と提言した。
確かに土俵以外の素顔や場面というのは、印象にも残るしより親近感も湧く。横野氏も、「元々自分も大関・若島津関のファンで、最初は顔から入ったが、だんだんその素顔を見て親しみを感じ、さらに好きになっていった。そして相撲の稽古を見て、こんなに厳しい稽古の上であの相撲があると分かった。だから相撲の稽古を見るきっかけになるための、テレビは手助けというか提案ができればいいのではないかと思う」と語った。

一方で、相撲の取組は非常に短いので、スマホでの視聴と関係性や親和性があるのではないか。横野氏も、「そういう意味では長い1時間半とか2時間の競技のスポーツではないので、スマートフォン世代にはすごくいい。古い歴史のあるスポーツではあるが、非常に今の時代に向いているというか、ピッタリくる気がする。だからネットでの広がりの可能性も今後さらに出てくるだろうし、ネット上で毎場所ごとにいろいろな特集なども出てくるかもしれない。番組を作る側としても負けられないと思う」と述べた。
横野氏に、今後、チャレンジしたい事を尋ねると、「やはり厳しい稽古場で見せるあの力士の姿を、より多くの人に見てもらいたいと思う。厳しい部分、相撲の古い伝統の世界の中で、今の力士、“ゆとり力士"と言われている力士たちがどう相撲に向き合っていって、広がっていくかというのを、きちんとテレビで伝えられたらいいなと思っている」と語った。
やはり“ゆとり世代"の力士はそれまでの力士との変化が出てきているのだろうか。横野氏は、「それはある。稽古の量も時間も違うのだが、今の“ゆとり力士"たちは昔の人とは違う角度ですごく研究していたりする。また新しい相撲の時代に、昔のルールは通用しないものもたくさんあるので、進化している相撲界を伝えていきたいと思っている」と述べた。
また、相撲というのはもはや世界の人たちが知っている競技となっている。横野氏も、「ものすごく大勢の外国人の相撲ファンとか観光客がツアーで来ている。日本に来たら相撲が見たい、で、相撲を開催する土地、九州とか大阪に行きたいという人も結構いる。外国人の方がよほどルールなどに詳しい場合もある。だからそういうことにも応えられるようなサービスを相撲協会もやっているし、やっていかなければいけないと思う。いずれテレビ中継の字幕スーパーに英語が必要な時代も来るかもしれない」と述べた。
インターネットの普及に伴い、今後相撲は世界中で見られるようになるかもしれない。そう考えると、今後テレビが存在感を築いていくには、テレビ局側の人間たちも、知識の向上とか意欲の向上が当然不可欠になってくる。
最後に横野氏は、「だからこそ独自で番組を配信するネットに負けない番組作りをしていかなければいけない。力士も独自で発信しているので、それにも負けないように、今後取材をしていかなければいけないと思っている」と締めくくった。


GUEST
横野レイコ / 相撲リポーター
二十歳のころに若島津のファンになったのをきっかけに、リポーター業に。1986年からフジテレビ「3時のあなた」「おはよう!ナイスデイ」「とくダネ!」の専属リポーター。 著書に「お兄ちゃん」(若乃花13年の土俵人生を取材を通し描く)、「I am a RIKISHI」(外国人力士から見た大相撲) 、「朝青龍との3000日戦争」。
趣味はガーデニングとフランス映画鑑賞。

COMMENTATOR
原田曜平 / 博報堂ブランドデザイン若者研究所

 
 

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