新・週刊フジテレビ批評

The 批評対談

雲仙普賢岳火砕流から25年 災害報道の教訓とあるべき姿

DATE : 2016.05.28(土)

CATEGORIES : | The 批評対談 | 報道・情報 |



1991年6月3日、噴火が続いていた長崎の雲仙普賢岳で大規模な火砕流が発生。取材していたカメラマンや地元消防団員など43人が犠牲となった。あれから25年、この出来事はマスメディアにとって大きな教訓となっている。そして先日発生した熊本地震の際の取材姿勢に対しても、賛否様々な声が寄せられている。テレビは災害報道とどう向き合っていけばいいのか。番組のコメンテーターである江川紹子氏と松野良一氏に聞いた。

災害発生当時、オウムの坂本弁護士事件の取材中だった江川氏は、「報道で災害の発生を知り、ものすごい衝撃を受けた。特に報道関係者が大勢亡くなっており、他人事ではないという感じがした」と語った。当時朝日新聞の記者だった松野氏も、司法クラブで一緒だった友人のテレビ朝日の記者が犠牲になった事を語り、「最前線に行かないと取材も撮影もできないが、やはり命があって初めて報道ができるという原点をもう一度確認した事件だった」と述べた。

この事件はテレビ局にとってどのような意味があったのか。これまで様々な災害の取材や管理を行ってきたフジテレビ解説委員の大林宏氏は、VTR取材の中で、「離れた場所から取材陣がみんな映像を競っていたところに、予想外の大爆発が起こり、40数人が犠牲となった。そういう事があって初めて自然の怖さ、災害の怖さが身にしみた。その後は噴火や火砕流について事前に学ぶようにもなった。雲仙普賢岳の悲劇は非常に大きなものがあり、取材する記者・カメラマンの安全をまず第一に考え、いい映像を撮影するのは2番目、3番目、というように意識が変わってきた」と語った。
松野氏は、「当時、マスコミ側に火砕流に関する知識が欠けていた。取材陣は現場に消防団がいるから大丈夫だと考え、逆に消防団もマスコミがいるから大丈夫だと思っていたところに火砕流が発生して巻き込まれてしまった。この自然災害に対する認識が不足していたことが最大の原因だった。その後、勉強会なども開かれ、安全管理の教訓というか、取材する上でやはり一番安全が大事だということを確認し、ここから大きく取材のあり方が変わってきたと思う」と指摘。その上で、「やはりマスコミ関係者には、“特ダネを取りたい"とか“視聴率を上げたい"“いい映像を撮りたい"という気持ちがある。それがいい意味で働けばいいのだが、行き過ぎると事故に巻き込まれたり、トラブルが起きたりする。逆にそれがないとパワーにならないというところもあり、非常にそのバランスが難しい」と述べた。
江川氏は、「当時、土石流の方を警戒しており、火砕流に対する備えが非常に甘かった。専門家、特に九州大学の観測所の太田一也先生が火砕流に対する危険を指摘していたのに、それが現場まで伝わっていなかった」と指摘。さらに一部の報道関係者が、避難した方の留守宅に勝手に上がり込み、電源を使用するなどの事例があった事、その警戒のための見回りに、一旦後方に下がった消防団がもう一度危険地域へ向かったという事情を説明し、「消防団の関係者からすると、マスコミのために自分たちの仲間が命を失うことになったという非常に強い思いもあった。ただその一方でメディアがいろいろと報道することによって伝わるものもある。その両方の思いがやはり地元の人にはあったと思う」と語った。

この事件が残した教訓について聞くと、江川氏は、「やはり“安全の問題が一番大事"だと自覚されたことは非常に大事。台風報道などもかなり変化しており、取材する者の安全を確保した上での報道が、むしろ視聴者に“危険なことをしないように"と伝えることになる、というようにかなり意識は変わってきた」と述べた。しかしその反面、「人によって、あるいは会社によって違う安全の判断が“一律"になってしまった。東日本大震災の原発事故が発生した時にメディアが一斉に撤退したり、あるいは戦争取材などでも自己責任で現地に向かう人を非難したりするようになったのも、やはりこの普賢岳の時が最初だった」と分析した。
松野氏も同様に、「よく言われていたのが“報道関係者が二次被害を引き起こすな"ということ。取材する立場なのに巻き込まれてしまい、自分たちが当事者にならないようにする、ということがもう1回確認されたのは大きい。ただこういうケースでは現場でいろいろなトラブルが発生するのだが、それを局内、あるいは系列局、あるいは各社間で知識を共有するという作業がなかなか進んでいない。だから何度も同じ事を繰り返している。みんな腹を割ってそういうものを固めた方がいいと思うし、新人にも教育していくべき」と語った。
さらに江川氏は、「こういうことがあると、一度みんなが“安全"の方に向かい、でもやはり揺り戻しがあって一斉に反対側へ行く。そうやって少しずつ、らせん状になりながらよくなってきている、という風に思いたい」と述べた。

最近の熊本地震に関しても、報道を巡って賛否様々な声が上がった。これについて実際に現地で取材した江川氏は、「テレビではどうしても目に見えるモノを撮ろうとするので、本当にひどい被害地域の映像をより多く見せることになる。熊本城の惨状などもそうだが、実際に熊本に入るとそういう目に見える被害はむしろ少ない。しかし実は目に見えない被害も数多くあり、そういうものをどうやって伝えるかというのは、テレビには難しいのではないか」と指摘した。さらに避難所設営の取材の際に、人手不足を見かねて、取材を中断して自ら手伝ったエピソードを話し、「一緒に作業をやることで、逆に外から取材していると見えないものが見えてきた。行政だけでは本当に成り立たない、多くの民間の力があって初めてできるということや、行政の問題点など、そういう準備段階を見ていないと分からない」と語った。
一方で松野氏は、自らの阪神淡路大震災取材時のエピソードを語り、「今回の熊本地震でも、中継車のガソリンの問題、弁当の問題、などのトラブルがあった。被災地に入る場合、取材側はそれなりにキチッとした補給を考えた上で入るべき。デスクが“とにかく行け"と記者を行かせるのではなく、ちゃんと準備をして被災地の方に迷惑を掛けない態勢を作っておくことが一番大事だ」と取材側の準備の重要性を訴えた。
さらに松野氏は今回の熊本地震取材の中でのプラス面として、「今回、ドローンによる空撮映像が非常に効果的だった。地上の映像はバタバタしているが、空撮映像によって全体の被害状況が把握できた」と指摘した。
江川氏は、「最近はペットとの同行避難が推奨されているが、実際には避難所で受け入れてもらえないなどの問題もある。今回、早い段階でペットとの同行避難をどうするかということで、いろいろな報道があったのはとても良かったと思う」と述べた。また、「今までの災害でも、避難所のテレビで被災者たちが、旅番組やバラエティ番組を食い入るように見ていたのが印象深かった。やはり現実が大変だからこそ、テレビを見ている時だけでも失われた日常を取り戻し、思い切り笑って元気になるということも必要。あまり自粛モードに入らないのも大事だと思う」と、報道以外のテレビの役割を指摘した。

今後、災害報道に求めることについて松野氏は、「フジテレビは東日本大震災のレポートをきちんとまとめたと聞いた。今度はそのエッセンスを取り出して、社内研修、新人研修、あるいはまだ実際に現場に行ったことのない記者に向けて、注意すべき点を教えた方がいい。これまでに現場で発生した様々なトラブルから得た教訓を、社として学んでおいた方がいい。あるいは系列局を含めて、是非やってもらいたい」と提言した。
江川氏は取材者側の心得として、「東京から取材に行く場合、それまで得た情報で予めストーリーを作って現地に行ってしまうことがある。そういうところは注意が必要だと思う。なじみやすいストーリーに沿った取材ではなく、いろいろな視点を持つべき」と述べた。さらに、「テレビというのはやはり変化が好き。これだけ変わったというものはフォローするが、変わらないということの方が逆に人々にとっては大変だったりすることもある。いろいろと工夫をしながら、息長くこの問題を伝えていくのが大事だと思う。やはりテレビの影響は非常に大きく、テレビ報道によって義援金が集まることで、被災者たちの生活再建に大いに役立つ。そういうこともあるので、できれば義援金の使われ方などについても細かくフォローしてほしい」と語った。
最後に松野氏は、「あと一つ、番組制作者の苦労も伝えた方がいいと思う。現場での取材の中でのジレンマを多くの人たちに理解してもらえると思う」と締めくくった。


GUEST
江川紹子(えがわ しょうこ)ジャーナリスト

COMMENTATOR
中央大教授 松野 良一(まつの りょういち)

 

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