新・週刊フジテレビ批評

The 批評対談

”ネット炎上”とテレビはどう向き合うべきか

DATE : 2016.05.21(土)

CATEGORIES : | The 批評対談 | メディア |




SNSなどの普及によってネット上では自由な議論がなされ、人々は様々な考えを知ることができるようなった。しかしその反面、非難や誹謗中傷が殺到する“炎上"という現象も問題となってきている。社会に大きな影響を及ぼす“ネット炎上"について、最近『ネット炎上の研究』という著書を発表した山口真一氏に聞いた。

ネット炎上の功罪について、「社会的影響として良い面は、企業あるいは著名人の不適切な行為が明るみに出るということがある」と語る山口氏。2011年にネット販売されたおせち料理がサンプル写真と大きく異なり、また期日に届かなかったり、腐っていたという事件を例に挙げて、「ソーシャルメディアの普及により、今までは泣き寝入りで終わっていたことが公になり、社会に訴えることができるようになったのは炎上の良い点として挙げてもよいのではないか」と述べた。
「しかしその一方でもちろん悪い点もある。ミクロ的には、炎上の対象となった企業の株価が下がる、あるいは対象となった人物の人生がめちゃくちゃになるといった影響がある。さらに、よりマクロ的な視点で見ると、炎上という形の誹謗中傷や批判の集中を怖れて、みんながインターネット上で自由な情報発信をしなくなってしまうということ、この萎縮効果がものすごく大きな社会的なコストではないかと思う」と山口氏は危惧する。さらに「この萎縮効果によって、インターネットの一つの魅力である自由な発信という議論の場から、中庸的な意見を持つ人たちが撤退していく。極端な意見を持つ人たちは強い意志を持っているので撤退することはない」と述べ、「一般的に意見分布というのは中庸的な意見の人が多くて、極端な意見の人は少ない。しかし炎上などが頻発することによって、インターネットで議論するのに嫌気が差してしまう。例えば、ちょっと反対しただけでものすごい攻撃を食らってしまえば嫌になり、撤退するのも当然。そういう人は中庸的な意見の人が非常に多く、彼らが撤退した結果、ネット上には極端な意見だけしか残らなくなるというのが炎上の大きな悪影響である」と分析した。
また山口氏は安全保障問題の集団的自衛権についてのネット上での議論を例に挙げ、本来は様々な議論の種があるはずなのに、ネット上では賛成派と反対派の極端な意見による議論だけが目立っていたと解説。「インターネットというのは本来、いろいろな人が自由な意見を発信できて、民主主義というか、非常に有意義な議論ができることが魅力だったはず。しかしエネルギーのある人が大量に書き込むなど、それが目立ってしまうことによって、有意義な議論ができなくなっている」と語った。
昨今、炎上によって企業がCMを中止したり、熊本地震で被災した女性タレントがブログ炎上によってブログ発信をやめたりという現象が起きている。これについて山口氏は、「CM中止の件は、ネット炎上とはちょっと違うかもしれない。ネット上では結構好意的な意見も多く、中止したのはもしかしたら電話などによる批判が原因かもしれない。いずれにせよ批判によって中止するというのは、“不寛容社会"という意味では炎上と近いかもしれない。実際には擁護するコメントも多く、一番ネット上で騒がれたのはCM中止後で、中止の必要はないという意見も多かった。個人的にも中止の必要はなかったと思う」と説明。「ああいった批判を受けて取り下げるという行為は、自分たちが発信した内容に非があったと認めることになってしまう。そうすると批判した人たちは、やはり自分たちが正しかったと盛り上がる。そしてまた次の対象にも同じように攻撃を加えてしまう。反社会的行為でない場合は取り下げない方がいいし、むしろ取り下げることによって炎上を加速させているという側面はあるかもしれない」と持論を展開した。
ネット上で強い意見というのは、大勢が同意見なのかと思うが、「特にネット上では匿名性ということもあり、すごく強い意志を持った人が何回も書き込むことによって、非常に批判的な意見が多く見えたりもする。だが実は、実際に書き込んでいる人たちはごく少数である」と山口氏は語る。
山口氏はインターネットモニター約2万人を対象にアンケートで炎上に関する調査を実施、その結果、まず『ネット炎上を聞いたことはあるが見たことはない』という人が75.4%と非常に多いことが分かった。最も特徴的なのが『1度書き込んだことがある』(0.5%)、『2度以上書き込んだことがある』(0.6%)と、合計してもわずか1.1%にすぎないこと。炎上は1日に1回以上発生していると言われるが、そういった社会に大きな影響を与えている炎上に参加している人が、実はネットユーザーの1.1%しかいないという実態が判明した。
この少数の人たちの意見がどうやって拡散していくのか。これについて山口氏は、「ソーシャルメディア上でツイート、リツイートなどによって情報が拡散されると、今度は『まとめサイト』でその問題を面白おかしく取り上げる。そうするといろいろな人がそれを知ることになり、炎上規模としてはかなり大きくなる。それを踏まえてさらにマスメディアがそれを取り上げ、こういう事件があり、こういう意見がネット上にある、と報じる、そういう図式になっている」と説明した。
だとするとマスメディア、テレビはこういう状況にどう向き合っていけばいいのか。山口氏は、「まず、炎上に参加している人は非常に少ない、という事実を踏まえた上で報道していく必要がある。最近よく言われる『ネット世論』と呼ばれるものが、実はごく少数の意見である可能性があるということを踏まえる必要がある」と述べた。さらに実例として熊本地震の際に芸能人の寄付の表明に対して批判が集中した一件を例に挙げ、「あの件で言うと擁護する人も非常に多かったし、逆に批判した人を批判する意見も多かった。また女性タレントのブログに大量の批判コメントが集中した件でも、IPアドレスを調べてみたら、実はわずか6人だったという話も聞いた。しかしマスメディアが大きく取り上げたことによって、結果的にネットの悪いイメージを植え付けてしまうことになり、悪影響もあったと感じている」と語った。
こうしたネット炎上は他の国でも起きているのだろうか。「最も有名なのは韓国の事例で、韓国ではネット炎上が起こりやすく、芸能人の自殺などの悲惨な事件も起きている。しかし欧米では『フレーミング』という1対1の罵り合いが多く、そちらの方が問題となっている」と山口氏は述べた。
では、誰でも自由に発言できる議論の場という、本来のネット空間を育てていくためにはどうしたらよいのか。山口氏は、「最も重要なのは教育の必要性。今の子供たちは幼い頃からLINEやツイッターなどのソーシャルメディアに触れて生活している。そういった中で、インターネットリテラシーというか、当たり前のこと“誹謗中傷をしてはいけない"“汚い言葉で批判してはいけない"ということを教育する必要がある」と訴えた上で、さらに「インターネット上に溢れている意見、特に『まとめサイト』のようなものは、いろいろな意見をまとめているように見えて、実はそれをまとめている人の意思が非常に反映されているということを知っておくべきである。多種多様のコメントをピックアップすることで、一見多様な意見があるように見えるが、本当は面白おかしくまとめているだけで、偏った意見になっている可能性がある、と思いながら見る必要がある。そういったことを幼い頃から教育していくのが大事だと思う」と語った。
さらに山口氏は、「マスメディアで報道する際に、『ネット世論』というものが必ずしも国民全体の意見を代表している訳ではない、ということを知っておく必要があるし、そういう報じ方をすべきである。“世論"という単語を使っていても、電話調査などとは違って、ネット上で発信しているのはものすごく発信したいという気持ちの強い人たちで、中には批判的な物を何度も発信している人もいる。これは普通の世論とは一致していないと考えるのが妥当である」とマスメディアに対しても警鐘を鳴らす。
また、「マスメディアの報じ方として、インターネット上の批判を恐れて何かを報じるのをやめるとか、言い方を変えるとかということはやはり避けた方がいい。ネット上で批判する人はごく一部なので、万人に批判されるような内容は別として、別の考え方があることを、炎上を恐れて発信しなくなってしまうというのは非常に良くないと思う」とも。
「やはりインターネットにずっと触れていると、ネット上の極端な意見が普通の一般的な意見だと思ってしまう。だが実はそれがごく一部の意見であるという可能性があるということを、マスメディアが報じていくのは非常に意義のあることである」と期待を寄せる山口氏。最後に「今回の熊本地震の件では、“不謹慎狩り"があった際に、批判している人を批判する意見が多く目立っていた。東日本大震災の時にはあまり見られなかったことであり、これほどまでに“不謹慎狩り"に対して批判する空気はなかった。今はまだ情報社会となってまだ何十年という段階であり、今後長期にわたってこの社会が発展していく中で、こういった自浄作用が働いて良い環境が築けていくのではないかと考えている」と締めくくった。


GUEST
山口真一 / 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター助教
1986年生まれ。2010年慶應義塾大学経済学部卒、15年同大学経済学研究科で博士号(経済学)を取得、同年より現職。専門は計量経済学、研究領域はソーシャルメディア、フリービジネス、プラットフォーム戦略、コンテンツ産業等。主な著作に『ソーシャルゲームのビジネスモデル』(共著、勁草書房)、『ネット炎上の研究』(共著、勁草書房)など。

COMMENTATOR
上智大 音 好宏(おと よしひろ)教授



 

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