新・週刊フジテレビ批評

クリティックトーク

アベノミクス報道に必要な視点

DATE : 2013.03.30(土)

CATEGORIES : | Critique TALK |

経済の専門家という立場から3カ月が経った安倍政権について、山崎氏は、「アベノミクスと言われているパッケージだが、現在のところ概ね適切である。金融政策・財政政策・成長戦略という『3本の矢』と言っているが、その金融政策の部分が機能しつつある。ただ、財政政策には少し問題がありそうにも思うし、成長戦略はどうなのか、という問題のあるので、すべてがOKというわけではないが、デフレ脱却は必要だし、それに対して打った手は概ねいいのではないか。」と語った。

 アベノミクスの報道については、山崎氏は「それは十分にできてないのではないか。アベノミクスで円安になって、株価が上がっているというふうに言われているが、ではなぜ円安になって、株価が上がってるのかというようなことが、たぶん正確に伝えられていないので視聴者も納得できないんじゃないかと思う。」と話した。

 そこで、山崎氏にアベノミクス報道に足りない視点を挙げてもらった。それは@円安・株高の仕組み、A対立する金融緩和策の議論、B解決する問題と解決しない問題の区別、の3点。
まず、@の「円安・株高の仕組み」について、山崎氏は「一番重要な政策が効く仕組みということがたぶん丁寧に伝わっていない。それからもうひとつ、これは経済学者の間でも議論のある問題なので、その議論が対立しているものが正確に伝わっているかどうかというか、伝える人がそれを理解した上で伝えているかという部分の問題、これは難しいところもあるが。それからもう一つは、アベノミクスというか、デフレ脱却ということですべての問題が解決するわけではない。それだけで成長戦略が解決するわけではないし、あるいは年金問題のような分配の問題で重要な問題でも、アベノミクスで全部が解決するわけではない。ただ、例えば年金問題を考えるにしても、デフレでない方が問題が解決しやすくなるということはあるから、アベノミクススだけで全部が解決するわけではないということを、アベノミクス批判として伝えるのも正確ではないし、その辺はきちんと切り分けして伝えないといけない。まずは、その一番の仕組みのところが伝わってないのかなと思う。」と話した。

 「円安・株高の仕組み」について、山崎氏は「いまインフレ目標2%だって言って、金融緩和しますと言ってて、はたしてそれで本当にインフレになるのか、という問題がある。それに対して起こったことというのは、インフレ目標が提示されて、それも1%から2%に引き上げた。そうすると、将来の金融政策の予想が変化する。インフレ目標が1%だと、将来物価上昇率が1%に近いところまで上がってきたときに、すぐに金融緩和をやめてしまうかもしれない。2%までハードルが上がっていると、1%まで物価が上がってきたとしても、ゼロ金利は続くだろう、金融緩和は続くだろうという予想はできる。そうすると、将来のインフレ率に対する金利がマイナスになるような将来の予想される実質金利が下がるということになる。ここまではあくまでも予想の話で、実際は為替レートにしても、株価にしても予想に対して反応する。予想に対して反応するということは普通のことで正しい。かつ予想がどれだけ強固なものになるか、だから、将来2%までは金融緩和をしまうという約束がどれだけ信用されるかどうかということが、この政策が効くか効かないかのキーポイントになるということ。」と語った。だから、日銀の総裁人事でおそらく違う総裁にすると、株価が千円か二千円違ったと思うが、それはなぜそういうことが起こるかというと、将来の予想に対する信頼度や市場がみる見方が変わるからということだし、あるいは、将来日銀法の改正があるかないかという話もその予想をどれだけ強力に持たせることが出来るかという視点で見ると理解が出来る。その予想に対して働きかけてるという政策なので、その将来の約束というニュアンスが実際にはその為替レートに影響してきて、株価に影響して、為替レートが円安になると景気にも一応プラスに働いてくる。景気に働いてくると将来物価が上がって来るというような順番になるので、ここの、予想に働きかけているということの仕組みが正確に伝わらないと、何かインフレ目標ということを言ったからといって、それに市場に浮かれてるとか、あるいは何か気合いを入れて言えば、それで株価も上がって景気もよくなるというようなことを言ってるというような賛成している人も、反対している人も釈然としないような話になってしまうが、今説明しても難しい。ただ、伝えるすっきり納得できて報道してないのではないかという気がする。インフレになるという予想で、直ちに円安になるというふうに、円安になると直ちに株高にというふうに、起こっていることは直接的に見るといそういうことなのだが、なぜそうなっているのかというところの仕組みがたぶん納得できてないのではないかと思う。」と語った。

 江川氏は、「円安になると、株価に影響して、物価に影響するという流れは、ひとつの筋道としてはありだと思うが、それ以外のルートもある。例えば、円安になれば、輸入食料品とか、あるいはエネルギーが上がる。そうすると、景気に影響する前に、物価が一部どんどん上がっていくという現象がすでに出ていて、そこの説明がこういうふうになるはずが違うのはないかと・・・」と話した。

 山崎氏は「それは円安でも直ちに物価は上がるし、あとよくあるのが、物価が上がるわりに賃金が上がらないという話があるが、これはむしろ先に物価が上がることに対して賃金の上昇が遅れて、企業は利益の機会が広がるから雇用を増やすというような、ある意味ではインフレを介在したジョブシェアリングの仕組み。だから、多くの庶民は得をしないじゃないか、という批判もあるが、だがそれは初期の段階では当然そういうことになるので、そこは正確に伝えなければいけないところではある。その損得の問題として。ただそれは雇用市場における弱い人、例えば失業している人とかしそうな人とかを救済することになるし、一応円安に向かうことの方が経済活動を活性化するという意味ではかなりプラスなので、しかし、それが必ずしも生活している人みんなの、大多数のプラスになってないということも正確に伝えなければいけない。」と話した。

 アベノミクスで懸念されていることについて、山崎氏は、「期待が半分、懸念が半分だが、"バブル"の状況になる可能性がある。今は1986年ぐらいの感じに似ている。85年に『プラザ合意』があって円高になって、不況になって金融緩和した。金融緩和して業績は良くなってないが、株価は4割ぐらい上がったというのが86年。翌87年に『ブラックマンデー』があって、アメリカで株価が大きく下がった。世界の需要を冷やしてはいけないというので、日本は金融緩和と財政拡大を続けなくてはいけないということで87年、88年と金融緩和を続けたが、このときにバブルが大きくなってしまった。今の2%まで物価が上昇しなければ金融緩和がやめられないという条件というのはかなり長い間金融緩和を続けると言うことができる。例えば、金融マンの立場からすると、あるいはビジネスマンの立場からすると、バブルを起こすにはものすごい都合のいい条件ということが言えるし、現在はまだバブルではない。バブルっぽくなること自体は景気にとってプラスだし、アベノミクスの効果が現れるチャンネルのひとつでもあるわけだが。その後、本当にバブルになった場合に、後で不良債権ができてしまったり、バブルがはじけて大きな歪みができたりということもあるから、バブルに対する期待とともに、その準備もしておかなきゃいけないというような、ちょっとそういう感じもある。」と話した。

 こうした状況の中、今の経済報道の役割について、山崎氏は「伝える側が仕組みに納得した上で、ある程度の結論をもって伝える。もちろん学者の中でも議論のある問題なので、その両論を伝えるということはひとつの番組の中では難しいかもしれないが、総合的には必要ではあるが、もう少しその仕組みまで踏み込んで伝えない、例えば主婦目線でいって『これはどっちが得ですか?』や、『家計にはこれだけの影響がでますよ』など、それだけを伝えようとすると、適切に伝わらない部分がある。損得の問題は、これは損だが全体としてはこういうことなので、ということをセットで伝えないと。株価が上がったんだから、何でもいいじゃないかという伝え方をしてもいけないし、アベノミクスで全ての問題が解決するわけではないので、例えば年金問題ならそれはアベノミクスで解決しないではないか、という伝え方をしても仕方ない。」と語った。

 この不況の影には社会不安もあるということについて、山崎氏は「そういう心理の問題というのもある。同じ政策をやっていても、それをどう伝えるかということで、これは政府の伝え方であったり、日銀の伝え方ということも需要だし、それは将来の予想が変わることが現在に反映するという形で、大きく資本市場が動いていて、それに経済がくっついて動く、という仕組みになっているから。」と話した。

 「せっかく経済が動いて規定いるのだから水を差すな」という声もあることについて、山崎氏は「そこが難しいところ。水を差すと、例えば政府の関係者が言ったりして、例えば、麻生財務大臣なんかが『なかなかインフレにならないんじゃないか』とポロッと言ったりして、それで逆効果が現れたりすることもあるし、報道にも現実に影響する場面があるから、例えば、放送局がどう伝えるかということによって、それだけ株価や為替レートが動くということもあり得るので、責任は大きい。」と話した。


■ゲスト
山崎 元(やまざき はじめ) 経済評論家
■プロフィール
1958年北海道生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。以後、
12回の転職(野村投信、住友生命、住友信託、シュローダー投信、バーラ、メリルリンチ証券、パリバ証券、山一証券、DKA、UFJ総研)を経験。
現在は経済評論家、マイベンチマーク代表取締役として活躍している。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえた資産運用分野が専門。雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。
主な著書に『会社は2年で辞めていい』『「投資バカ」につける薬』『エコノミック恋愛術』など。

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