新・週刊フジテレビ批評

クリティックトーク

今テレビドラマに必要なもの

DATE : 2012.08.04(土)

CATEGORIES : | Critique TALK |

テレビドラマ研究を専門とする岡室氏に、実際に大学で教えていることを尋ねた。「日本のテレビドラマ史について語ったりもするが、例えば、ひとつのテレビドラマを選んで、それをワンクール、全話分を視聴する。それについて、学生が研究発表をして、みんなでディスカッションをしながら多角的に分析して掘り下げていくことをやっている。」と語った。

  岡室氏が考える「良いドラマの判断基準」を3点挙げてもらった。それは「@フィクションだからできることを追求しているかどうか。A心を動かされるかどうか。Bそれを見ることで自分の日常や世界の見方が変わるかどうか。」というもので、その岡室氏が好きなドラマについて具体的に挙げてもらうと、「もともとは山田太一さんや向田邦子さんらの脚本家の名作ドラマで育ってきて、90年代には北川悦吏子さん脚本の恋愛ドラマにものすごくドキドキしながら見たという経験もあるが、比較的新しいものを、やはり脚本家で選ぶと、2000年代では宮藤官九郎さんの大ファンで、例えば『木更津キャッツアイ』や、木皿泉さんの『すいか』。2010年代では、坂元裕二さんの『それでも、生きてゆく』と渡辺綾さんの『カーネーション』の4作を挙げておきたい。」と話した。

 『それでも、生きてゆく』は評価が高かったが視聴率は低かった。その視聴率に対する考え方について、岡室氏は「視聴率をどう考えるかというのはなかなか一筋縄ではいかないが、もちろん視聴率が高いドラマは、何かしらの魅力、視聴者を惹きつけるものがあるとは思うが、視聴率だけでは計れないドラマの魅力というのもいっぱいあると思う。例えば、先程挙げた好きな4作品もほとんどが視聴率をあまり取れなかった作品。3つの『良いドラマの判断基準』のような別の基準で豊かなドラマをきちんと評価していかないとなかなかドラマの質が向上していかないのではないかと考えている。」と話した。

 音氏は、「最近、ドラマの分析というときに、視聴率の話が出ると、視聴率が高いと言うことと時代性を絡めて論評する人が時々いるが、よく考えてみると、視聴率は同じ時間の裏の番組が何をやっているかやその日の天候など、もっといろんなものが絡み合って視聴率が出てきていると思う。ドラマは最初の放送のときにはそれほど評価されなかったが、後の再放送で評価される場合もある。例えば、『北の国から』の最初の放送の視聴率はあまり高くなかったり、アニメの『機動戦士ガンダム』の最初の視聴率は高くなかったが、今では"名作"と呼ばれるようになっている。そういうことを考えると、もう少しロングスパンで見なくてはいけないところもあると思う。」と話した。

 岡室氏は震災がドラマに大きな影響を与えたと述べていることについて、「震災を直接にドラマで描くということではなくて、そういう場合ももちろんあるが、震災の前と後では、視聴者側も制作者側も、何かしら意識が変わっているのではないかと感じている。だから、テレビドラマ史の中で、東日本大震災というのがひとつの大きなターニングポイントとして、これから考えていくようになるのではないかと思う。」と語った。

 震災前のドラマの状況について、岡室氏は「震災前は、正直言ってテレビドラマが勢いを失いつつあったのではないかと感じていた。どうしてそうなったのかというのは、もちろんいろんな要因があったと思うが、例えば、90年代後半ぐらいからバブルが崩壊して不況が長引いていたり、95年に阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件が起こった。そして、2001年には9.11のテロが起こる。そういう大きな事件や悲惨な災害が起こる中で、ものすごく衝撃的な映像がテレビから流れるようになった。そうしたときにフィクションというものが力を失ってしまうというか、現実の映像の方がフィクションよりも力を持ってしまう。例えば、恋愛ドラマで一喜一憂するというようなことが難しくなっていったようなことがあるのかと思う。ものすごい津波の映像を前にして、フィクションはもうダメではないかと思うところもあったが、フィクションの力が弱っていったというのは震災の前から起こっていた。ああいう衝撃的な体験をすることによって、むしろ私たちがフィクション、例えばテレビドラマを作ることの意味が問い直されたということがものすごく大きいのではないか。つまり、フィクションを作ると言うことが、もはや当たり前のことではなくなってしまった。そういう中で、作り手の人たちも今フィクションの世界であるテレビドラマを作ることのどこに意味があるのかということを問い直すようなことが起こっているのではないか。フジテレビの『それでも、生きてゆく』は、去年のマイベスト1。これは、もちろん震災前から企画されてはいたのだろうが、おそらく震災が影響を与えていると思う。ある事件の加害者家族と被害者家族が交流を持つという話だが、ある人の死とか、死が呼び起こす不幸とか、そういうものをいかに乗り越えていくかということが、妥協のないストイックな形で追求されたドラマだったと思う。そういう予定調和ではないストイックさや真摯さ、そういうものもやはり震災以降のドラマの特長なのかなと思う。」と話した。

 そして、震災から1年5カ月が経とうとする今の7月期のドラマについて、岡室氏は「全部見ているが、今のところ、『リッチマン、プアウーマン』が一番面白い。石原さとみさん扮するヒロインが、初回で靴を忘れて一見シンデレラストーリー風だが、そういう単純な物語ではなく、実はアイデンティティをめぐるドラマだと捉えている。というのは、ヒロインが就職活動がうまくいかない冴えない女子大生、東大生なのだが就職活動がうまくいかない。ところが、嘘の名前や高級な衣服をまとうことで、一見キャリアウーマン風になってしまう。ところが、ひとつ失敗することで元の貧乏生活に戻ってしまう。そういうことが毎回今のところ繰り返されていて、身分が激しく上下する。毎回アイデンティティが混乱していくようなドラマになっている。一方ヒロインをゲーム感覚で利用するように見える小栗旬さん演じるITベンチャーの社長は、すごくかっこいいが、自分の実のお母さんがわからない。そのお母さんを探す一環として、戸籍を管理するシステムをコンピュータ上で作ろうとしている。だから、この社長も自分のアイデンティティがよく分からない人として設定されている。だからおそらくこの二人が『本当の自分は何か』というような、ある種古典的なテーマを現代のバーチャルな時代の中で追求していくようなドラマではないかと捉えていて、そうするとすごく面白いのが、火曜日の『息もできない夏』と実はテーマがすごく似ている。『息もできない夏』は、ヒロインがもろに戸籍を持たない少女として出ていて、わりと直球勝負で自分のアイデンティティを獲得していくような物語だと思う。ところが、『息もできない夏』が少し重たいのに対して、『リッチマン、プアウーマン』の方は非常に複合型のドラマになっているので入っていきやすい。さまざまな要素が複合的に絡まっている、その向こうに深いテーマが見えてくるような仕掛けになっていると思う。いわゆる"月9"枠だが、前のドラマが『鍵のかかった部屋』で、恋愛要素がほとんどなかったが、今回は恋愛要素も複合的な要素の一環としてほどよいさじ加減で入っていてすごくいいなと思う。」と語った。

 これだけ人々の意識が変化している中でテレビドラマに必要なものについて、岡室氏は「最初に3つ出した『良いドラマの判断基準』に尽きる気がする。特に、『フィクションだからできること』というのをすごく重視していて、いま嘘くさいドラマは、ツッコミの対象になってしまう。フィクションであることをむしろ逆に利用していくようなドラマが面白いと思っていて、例えば前クールでいうと、『リーガル・ハイ』みたいなドラマ。あれは嘘というものを肯定していきながら、嘘という枠の中で実は非常に重要なメッセージを発していたと思う。そういうのが作り方としては新鮮だった。連続ドラマが大好き。やはり、その連続ドラマにドラマであることの意味が込められていると思うので、作る側も見る側も、ドラマが始まってから1クール終わるまでの間に変容していけるような、作る前と作った後、見る前と見た後で変わっていけるようなドラマというものが心を動かすのではないかと思う。」と語った。


■ゲスト
岡室 美奈子(おかむろ みなこ) 早稲田大学文化構想学部教授

■プロフィール
1958年三重県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科芸術学(演劇)専攻博士課程を経て、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン大学院(アイルランド)に留学。同大学でサミュエル・ベケットの演劇・テレビドラマ研究により博士号を取得。現在は、早稲田大学文化構想学部表象・メディア論系でテレビ文化論、メディア演劇論、幻影論ゼミなどを担当。専門は現代演劇とテレビドラマ研究。主な編著書に「六〇年代演劇再考」、「サミュエル・ベケット!――これからの批評」などがある。

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