新・週刊フジテレビ批評

クリティックトーク

”ネトウヨ心理”とテレビ

DATE : 2011.11.12(土)

CATEGORIES : | Critique TALK |

"ネトウヨ"の定義について、濱野氏は「定義としては、『ネット右翼』という言葉の略で、ネット上で右翼的。つまり愛国主義的、ナショナリズム的な発言をしたり、排外主義的な言論を強く打ち出す集団をさす。日本では、だいたい2000年代初頭から主に匿名掲示板の『2ちゃんねる』の隆盛と共に増えて来た人たちで、日韓ワールドカップサッカーの共催があった2002年頃から結構注目され始めた人たち。別のいい方では、『嫌韓』とか、『嫌中』といった、韓国を嫌う、中国を嫌うという言い方をする。2005年には漫画『嫌韓流』が結構売れたことで、対外的にも知られるようになったのが"ネトウヨ"の人たちになる。『ネット右翼』の人たちは、デモを行ったり手法的には結構左派的な人たち、庶民派的な人たちと同じようなアプローチをとる人もいて、従来的な右翼のイメージの延長にあると思わないほうがいい。全く知らない人は、ネットの人がみんな右翼かと思ってしまうかもしれないが、そんなことは全くなくて、私の場合、重度の『2ちゃんねらー』で、『2ちゃんねる』が凄く大好きな人間だが、『2ちゃんねらー』でも"ネトウヨ"ではない、という風な感じで、全員が全員ではないということ。」と語った。

 憂国的な発言が増えていることについて、濱野氏は「この問題はここ10年ぐらいのスパンでとらえた方がいい。直接のきっかけは1998年に漫画家の小林よしのり氏が書いた『戦争論』の中で主張をしていたのが、日本の知識人やメディアは基本的に左派的な傾向が強くて、自虐史観、日本は侵略戦争で韓国や中国に悪いことをしたというスタンスをとっている。メディアはそれを鵜呑みにして日本は自虐史観をずっと日本国民に押し付けてしまっている。それは小林氏の考えではよくないし、そんなことをやったら国を愛せなくなる。それで日本を愛せるようになるには、メディアのねつ造ややらせを批判していかなければいけないということを主張した。小林氏本人は直接影響を与えているのは認めてないが、『2ちゃんねらー』の特に"ネトウヨ"の人たちというのは、特にメディアを疑う。メディアが何か反日的なことを作っているという図式を継承していて、それを軸にマスコミの批判をしていく。これはもう10年ぐらい続いている現象、思想的傾向なので、ネットのカルチャーは特に変化が早いことで有名だが、結構検証に値するものだと思う。社会背景、社会思想的に言うと、冷戦が崩壊して、もう左翼的なものが若者の世直し気分で回収できなくなった。そこで資本主義対共産主義の変わりに出て来たものが、小林よしのり氏の国民の歴史みたいな『大きな物語』、一応みんなが共有できるストーリーみたいなものになった。そして、世の中を変えたいとなったときには、共通の敵、打倒しなければいけないものというのが必要で、今年起きている中東の革命であれば『独裁政権を倒そう!』とみんなが集まれるし、今ウォール街占拠デモという形で特にアメリカのニューヨークを中心に運動が起きているが、あれだったら『1%の金持ちがいけない』という感じで、結構敵がはっきり見えるが、日本の場合はマスメディアというのが倒すべき敵で、俺たちの空間をねじ曲げている奴だという風に意識されている、というところがポイント。これが今の現状だ。」と話した。

 津田氏は「メディアに対する不信がずっと続いていることはある。情報の流れ方が変わってきた。テレビや新聞という一部のマスコミだけが情報を独占している時代ではなくなったし、逆にネット側から見ると、政府や民主党とマスコミがタッグを組んで何かしらやっているのではないか。マスコミ自体が権力の批判装置とは言っても実は権力化しているのではないかと見なされている部分がある。それは情報が作為的に編集されているとか、不自然にいろんなことを横並びに報道しているというところに何らかの意図があるのではないかという所も含めて、そういう不満はネットでずっと繰り返されてきた。ここ1年ぐらいで具体的な行動にまで移るようになって、フジテレビで言えば最近、反対や抗議するデモも起きている。その辺りは少しずつやっぱり変わってきているという気がする。」と語った。

 震災によってネットユーザーの人に変化はあったのかということについて、濱野氏は、「それは間違いなくあった。ネットに限らず、日本社会全体の空気が大きく変わった。日本社会も『このままじゃまずい』と誰もが思うような災害であって、ネット上でも、現地の人たちを助けにいかなきゃとボランティアに目覚める人もいれば、原発事故の問題があって政府は情報を隠しているのではないか、メディアは政府と結託して情報を隠してるんじゃないかと、そういう疑問、批判意識を持つのはむしろ普通に自然な流れとしてあって、それと平行した流れとして"ネトウヨ"的な、マスメディアを批判するような人たちが出てきているのがあると思う。実際には "ネトウヨ的"な人たちは、基本的には結構まじめで批判意識もっている感じの人たちが多い。それがいくつか寄り集まると過激な発言に見えてしまうことがあるが、形式だけ見るとメディアをまじめに批判してメディアの言っていることをきちんと検証しようという人たちの集まりだとみなすことができると思う。実際に、欧米諸国、特にアメリカが盛んだが、メディアは『第4の権力』という言い方もあり、そのマスメディアが権力ならば、市民の側が監視するという形で『パブリックジャーナリズム』、オンブズマン的な市民がメディアを監視するという動きは向こうではネット上を中心に起こっている。日本でも、ある意味そういうふうに評価できる、"ネトウヨ的"な人がいることは、ある種日本のメディアを巡る民主主義的な状況はむしろ健全と言えなくもない。だから、右翼だから聞かなくてもいいという感じで無視するようなレッテル張りはそろそろもう限界で、やめた方がいい。」と語った。

 津田氏は「どちらかというと、新聞やテレビはTPP推進の論調が多いが、今ではテレビの議論とTPPのネットを通じた検証が全く違う。TPPに関しては、メディア不信という意味で繋がっている。TPPでアメリカはものすごくちゃんと利益を出している。自国にとってどれだけメリットがあるかをアメリカのUSTR(通商代表部)のサイトが書いている。そういう情報を提供した上で『みなさん判断して下さい』ということを政府がやっている。ところが日本の政府ほとんどやってない。よくわからない文章が、PDF形式で政府のサイトに置かれていて、本当だったらちゃんと検証・解説するのがメディアの役目だと思うが、十分にやれているメディアが新聞もテレビもなかなかないので、その手間がかかる作業をいまネットの人たちがやり始めている。そういう意味でTPPは、メディアを共有している人たちと消費者との意識の乖離というのをすごく象徴的に現していて、分断していると感じる。」と話した。

 濱野氏は、「これはメディアに限らず、企業組織対ネットの問題というのがあって、『炎上』という状態が全体に共通する問題だが、ネットは個人のメディアリテラシーが高いような人たちがお互い情報発信し議論し検証するという流れだが、企業では企業組織の中で持ち帰って検証します、となるので、自由に対話するといっても結局一担当者に企業の意見を全部任せるわけにはいかない。
単純に思想内容の違いというよりは、企業という立場でものを言わなくてはいけない人たちとネットで自由に発言できる人たちの関係性をどう築くかっていうのは、メディアに限らずネット社会全般における問題だと言える。」と語った。

 津田氏は、「だから難しい。ただ一口に"ネトウヨ"と言ってもすごくいろんな人たちがいて、多分リアルの右翼の延長の感じの人もいれば、あとは中国や韓国が日本に対していろいろ言っていることに対して、自分たちもむかつくので、排外主義的になる人もいる。あとはメディアが嫌いだとか、左翼的なある意味エリート主義みたいなものに対する反発とかいろんな人がいろんな要素をもってすごいグラデーションがある。でも、そういう人たちがネットで繋がっている。今まではネット上で繋がっていたものがリアルでも繋がり始めたというところがここ数年みられるようになった現象。だからなかなかこういうことは、"ネトウヨ"ということを番組で取り上げる自体すごく意義があるけれども、これだけで伝えられることというのはなかなかないので、これを議論の契機にして、なぜそういうメディア不信が起きているのかというところで、メディアとネットユーザーの対話のチャンネルを作らないと、よりエスカレートして対立が深まると感じる。」と語った。

 テレビへの提言として、濱野氏は「"ネトウヨ"というレッテル張りをするなということ。逆に言うと、"ネトウヨ"の人たちにも言いたいのは、どうしても"ネトウヨ"の人たちはメディアのレッテル張りのスキルを使って、メディアに対してレッテル張りをしてお互いに張り合っている。これでは対話どころではない。もちろん言い分はあると思うが、なるべくレッテル張りから離れて、冷静に議論できる場をどんどん作っていくのが重要だと思う。」と話した。


濱野 智史(はまのさとし)批評家
■プロフィール
1980年千葉県生まれ。批評家。株式会社日本技芸リサーチャー。
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
専門は情報社会論・メディア論。
著書に『アーキテクチャの生態系』(NTT出版)、共著に『日本的ソーシャルメディアの未来』(技術評論社)など

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